研究課題/領域番号 |
19K18067
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
高田 晃次 大阪市立大学, 大学院医学研究科, 登録医 (00838261)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 乳癌 / 腫瘍微小環境 / 腫瘍免疫応答 |
研究実績の概要 |
瘍組織は,癌細胞とその周囲に存在する線維芽細胞や血管構成細胞,免疫細胞などの間質細胞から構成されている.癌細胞と間質細胞は相互作用により,腫瘍微小環境 (tumor microenvironment, TME) と称される特徴的な環境を形成している.乳癌治療においてTMEは,予後や治療効果を予測する上で重要な役割を担っていることが明らかになってきている. 一方で転移・再発乳癌においては,癌細胞の評価が原発巣とは異なるバイオロジーに変化する可能性が示唆されている.このサブタイプの変化により再発乳癌の治療方針が決定されるため,再発巣からのre-biopsyの重要性が提唱されている.しかしながらこれらの概念は,癌細胞におけるbiological marker発現 (ER, PgR, HER2, Ki67) の変化のみが注視されており,TMEのダイナミックな変化を評価するものではない.申請者は,再発に関わる悪性形質の獲得にはTMEの関与が大きいと考えている.これまで再発乳癌における免疫微小環境 (tumor immune-microenvironment, TIME) 変化を腫瘍浸潤リンパ球 (tumor-infiltrating lymphocytes, TILs) にて評価し,TIMEの悪化が予後に影響を及ぼすことを明らかにしてきた.本研究は局所の免疫指標であるTIMEと全身の免疫指標を比較検討することで,宿主における免疫応答メカニズムを検証していく.本年度は年齢や血小板・リンパ球比などの指標が予後予測マーカーとして有用であることを明らかにした.再発乳癌におけるTIMEの動的変化や全身における腫瘍免疫応答を様々な視点より検証し,その変化に関わる因子や不均一性を明らかにすることで,再発乳癌の対する新たな治療戦略の構築をすすめる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画に従って、乳癌再発に関わる腫瘍免疫や喫煙などとの関連を検索した. TMEの悪性変化に関わる臨床的因子の探究: 申請者はTMEの悪性変化に関わる臨床的因子を検索しており,QOL-ACD-BP, QOL-ACD-Bなどの指標が免疫活性に寄与し予後に与える影響や,喫煙やカルシウム拮抗剤がTIMEへ与える影響について議論した前研究を報告している.本研究ではこれらの臨床因子が再発時のTMEに与える影響も検証し,“breast cancer subtype discordance” との関連を明らかにしていく. 再発乳癌では、喫煙は腫瘍免疫を介してbiological markerの変化を来すことを明らかにした (J Transl Med 18:153, 2020).また全身性炎症マーカーである血小板・リンパ球比 (PLR) がセンチネルリンパ節生検における予測因子となることも報告を行った (Anticancer Res 40:2343-2349, 2020).本研究では、腫瘍免疫を介した癌の悪性転換について,交絡する因子を探究している. 初年度であり研究結果については,系統だった考察までには至らないが,全体としては今後の研究総括に向けて順調な進捗と思われる.
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今後の研究の推進方策 |
発巣と転移巣におけるTME変化の検証: 乳癌手術症例の手術標本 (原発巣) および転移巣のFFPE標本でのbiological markerの不一致 (ER, PgR, HER2, Ki67)による “breast cancer subtype discordance” を確認する.それらの標本でのTILsおよびそのサブセット解析を免疫組織化学染色にて行い,原発巣および転移巣でのimmune-phenotype (Inflamed, Excluded, Immune suppressed, Dessert) を明らかにし,TIME変化が治療効果や予後に与える影響を検証する.同様にEMT関連因子や低酸素関連マーカーを評価し,従来のdiscordance評価とTME変化を比較検討する. 原発巣と転移巣における腫瘍不均一性の検証: 腫瘍不均一性を明らかにすべくlaser micro dissection (LCM) 法を用いて,癌部および癌間質部の組織を領域別に採取し,癌局所のTMEの病態解明をすすめる.すなわち “breast cancer subtype discordance” に影響を及ぼす因子は腫瘍間質にあることを明らかにする. それぞれのmicro RNAやmRNAを抽出し,検討因子としてEMT関連因子や低酸素関連マーカー,免疫関連マーカーなどの発現解析をreal-time PCRにて行なう.さらに癌部および癌間質部から抽出した陽イオン代謝物質を精製し,キャピラリー電気泳動-質量分析装置を用いてメタボロミクスを実施して代謝競合変化も検証する.
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次年度使用額が生じた理由 |
これまでの研究は臨床データベースからの研究を行ったために、実験器具の購入が不要であった。次年度からは、その分子メカニズムの探究を行うために実験計画にて予定した研究費を要するものと考えられる。
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