昨年度までに、神経芽腫細胞に対するDFAT exosomeの抗腫瘍効果について確認するために、ヒト神経芽腫細胞株にDFAT exosomeを添加して培養し、神経芽腫細胞の形態変化と分化の有無を検討したところ、DFAT exosomeの添加により神経芽腫細胞の形態的変化を認めたが、細胞増殖抑制効果は十分に確認できなかった。また、先行実験においてDFATの培養上清を用いた神経芽腫細胞の分化誘導実験において、分化誘導は確認されたが細胞増殖抑制効果が十分に得られなかったことに対し、その原因を探るべく実験を行った。PI3Kの選択的阻害剤投与により、DFAT培養上清によって促進される神経芽腫細胞の細胞増殖能力を有意に抑制することを確認した。また同様の実験を行いPI3K阻害により、DFAT培養上清の分化誘導効果が促進されることを確認した。 神経芽腫細胞の分化誘導に関わる、DFATが分泌する液性因子の1つとしてBDNFの可能性を確認している。そのため本年度は動物実験を行うに当たり、DFATそのものを移植する細胞治療に対し、DFAT exosomeを用いた治療が劣らないことを確認するため、BDNF阻害下で、DFATと神経芽腫細胞の共培養及びDFAT培養上清を用いた神経芽腫細胞の培養とで、分化誘導に差が生じるかを比較した。 DFATとの共培養でBDNFを抑制したところ神経芽腫細胞の神経突起長の伸長を認め、神経分化マーカーであるNF及びTubβ3の発現の上昇を認めた。一方DFAT培養上清を用いた系では神経突起長の伸長や、神経分化マーカーの発現上昇は認めなかった。この結果DFATを移植した場合、その周辺細胞によるDFATそのものが影響を受け期待とは異なる結果をもたらす可能性がある一方で、exosomeによる期待しない効果はその原因となる因子を阻害することで未然に防げる可能性が示唆された。
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