研究課題/領域番号 |
19K18080
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
田中 伸孟 名古屋大学, 医学部附属病院, 病院助教 (30791066)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 膵癌 / 軸索誘導 |
研究実績の概要 |
軸索誘導(axon guidance)は発生の段階で神経回路形成が適切に行われるための重要なプロセスである。軸索誘導に関わる遺伝子群は各種癌の発生・進展にも関わるとされ、さらに膵癌は神経周囲浸潤が特徴的であるため、軸索誘導関連遺伝子として代表的な遺伝子ファミリーについて公共データベースThe CancerGenome Atlasの遺伝子情報を用いて解析を行った。軸索誘導に関連するSlit/Robo signaling pathwayに関連するROBOは膜貫通型受容体の一つであり、SLITはこのシグナル伝達機構におけるリガンドである。このROBOファミリーおよびSLITファミリーは軸索誘導に関連するだけでなく、細胞接着・細胞極性・細胞骨格等の現象にも関連するとされており、膵癌における発癌・進展に重要な役割を果たす可能性がある。SLIT/ROBOファミリーにはROBO1~4、SLIT1~3の分子が存在する。これらについてThe Cancer Genome AtlasのRNA-seqデータにおける膵癌腫瘍部・非腫瘍部の発現を解析するとROBO4の発現が腫瘍部で有意に低い結果であった。さらに腫瘍部でのROBO4低発現は予後不良な経過と関連していたため、膵におけるROBO4低下が発癌及び腫瘍学的悪性度の進展に重要であると確認した。術前治療(化学療法及び化学放射線療法)を施行していない膵癌症例168例について有望な分子について免疫組織学的染色を行い、再発・予後等を含めた臨床病理学的情報の結果を収集し、関連を解析した。 膵癌細胞株を用いてROBO4の強制発現系および発現消失系を作成し、細胞増殖能・浸潤能の変化を解析した。さらに上皮間葉転換に関わる遺伝子群の発現変化を解析し、ROBO4が膵癌の進展に関わるプロセスを検討した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
軸索誘導に関わる遺伝子群から膵癌の進展に特に関与する分子としてROBO4を抽出した。臨床検体を用いた遺伝子発現解析・タンパク発現解析や細胞株を用いた機能解析を行い、当該遺伝子の臨床的意義や膵癌細胞における上皮間葉転換関連遺伝子との関係の一端を解明することができた。研究成果を社会に発信するため、論文発表の準備を行っており概ね予定通りの進展である。
|
今後の研究の推進方策 |
これまで得られた臨床検体を用いた遺伝子発現解析実験結果・タンパク発現解析結果および細胞株を用いた機能解析実験結果をまとめ、学会発表および論文発表を通じて社会に発信予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
膵癌進展におけるROBO4発現の機能的役割を同定するため、関連する癌化過経路の同定やタンパク発現の解明が計画の当初より効率的に進んだこと、コロナウイルスの影響により、国内外での情報収集や成果発表に要する計画であった交通費が不要となったことにより、次年度未使用額が生じた。 未使用額については、ROBO4関連タンパク発現についての追加実験に使用する。
|