研究課題/領域番号 |
19K18083
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
松本 謙一 大阪大学, 医学部附属病院, 医員 (60781721)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 解糖系 / 肝細胞癌 / 腫瘍血管 / PFKFB3 |
研究実績の概要 |
【背景】腫瘍血管正常化は、不規則な構造の腫瘍血管を安定化させるという概念で、低酸素環境の改善、化学療法感受性の改善、転移の減少を認めるとされる。2016年、解糖系酵素であるPFKFB3が悪性黒色腫の腫瘍血管内皮細胞で高発現し、その阻害が腫瘍血管正常化を誘導することが報告された。今回、肝細胞癌における、腫瘍細胞および腫瘍血管内皮細胞でのPFKFB3発現の意義、およびPFKFB3の治療応用性を検討した。 【方法】①肝細胞癌切除検体99例を用いた2重蛍光免疫染色により、腫瘍細胞と腫瘍血管内皮細胞におけるPFKFB3の発現を評価し、予後との関連を検討した。②マウス肝癌細胞株、腫瘍血管内皮細胞および正常血管内皮細胞に対してsiPFKFB3を導入、もしくはPFKFB3阻害薬(PFK15)投与を行い、解糖系活性および細胞増殖能へ影響を評価した。③Balb/c nu/nuマウスに肝癌細胞株と腫瘍血管内皮細胞株を混合して皮下腫瘍を作成した。 【結果】①PFKFB3が腫瘍細胞/腫瘍血管内皮細胞共陽性の症例(27例)はそれ以外(72例)と比較し、DFS、OSともに不良であった(HR 3.80, p<0.001、 HR 2.45, p=0.030)。②肝癌細胞株と腫瘍血管内皮細胞は正常血管内皮細胞と比較し、低濃度のPFK15で乳酸産生の低下と細胞増殖抑制を認めた。siPFKFB3により肝癌細胞株と腫瘍血管内皮細胞は乳酸産生の低下と細胞増殖抑制を認めた。③肝癌細胞株と腫瘍血管内皮細胞の混合腫瘍は、肝癌細胞株単独の腫瘍と比較して、有意な腫瘍体積の増大を認めた。肝細胞癌においても腫瘍血管内皮細胞は正常血管内皮細胞と異なる特性を持っていることが示唆され、PFKFB3は治療ターゲットとなりうる可能性がある。今後、PFK15を担癌マウスに投与し、抗腫瘍効果、および腫瘍血管の形態的・機能的変化を評価する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当科における肝細胞癌切除検体にて、癌部および腫瘍血管内皮細胞におけるPFKFB3の発現と予後との関連を検証した。その結果、癌部および腫瘍血管内皮細胞の共陽性例は、最も予後不良であった。現在、我々は癌細胞および腫瘍血管内皮細胞におけるPFKFB3の機能解析を行っており、研究は順調に推移している
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今後の研究の推進方策 |
①皮下腫瘍マウスモデルを用いてPFKFB3阻害薬であるPFK15の抗腫瘍効果、および腫瘍血管の形態的・機能的変化の有無を評価する。まずは腫瘍の免疫蛍光染色で、腫瘍内血管密度と腫瘍血管におけるペリサイト定着率を評価する。さらに、hypoxyprobeとtomoto lectinを用いて腫瘍全体の低酸素領域と灌流域を評価し、腫瘍血管の機能的変化を検討する。 ②皮下腫瘍と並行し、マウス同所性肝細胞癌モデルを用いて、PFKFB3阻害薬による腫瘍および腫瘍血管への影響を評価する(転移の増減、腫瘍血管の構造変化等)予定である。腫瘍血管の立体的構造変化は、組織透明化法と蛍光免疫染色法により3次元にて評価する予定としている。
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次年度使用額が生じた理由 |
皮下腫瘍と並行し、マウス同所性肝細胞癌モデルを用いて、PFKFB3阻害薬による腫瘍および腫瘍血管への影響を評価する
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