研究課題/領域番号 |
19K18089
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
池嶋 遼 大阪大学, 医学系研究科, 招へい研究員 (60745397)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | Sox2 / 癌幹細胞 |
研究実績の概要 |
CD44やCD133などの細胞表面マーカーでは癌幹細胞と非癌幹細胞を正確に分離することができず癌幹細胞の明確な特定は困難である。Sox2 (SRY(sex determining region Y)-box2)は、人工多能性幹細胞(iPS細胞)作成時に必須の山中4因子に含まれる未分化マーカーとして知られている。Boumahdiらは近年皮膚癌領域において、Sox2遺伝子のプロモーターの下流に蛍光蛋白GFPを挿入することでSox2発現細胞を緑色に可視化させたSox2-GFPマウスの皮膚に発癌を起こし、GFP発現細胞 (=Sox2陽性細胞) とGFP非発現細胞 (=Sox2陰性細胞) をFlow cytometryで分離して免疫不全マウスの皮下に移植したところ、GFP陽性細胞の方がより少数で腫瘍を形成することを認め、 Sox2が皮膚癌幹細胞マーカーとなることを証明した(Boumahdi S et al. Nature,2014)。本研究ではSox2-GFPマウスを化学発癌させ、大腸癌形成過程を細胞系譜解析によって追跡し、Sox2が大腸癌でも癌幹細胞となりうるかどうかについて検討する。更にGFP陽性の癌細胞のシングルセル解析によって、新たな癌幹細胞マーカーを抽出し、その中で治療標的分子を同定することを目的とした。初年度は、Sox2-GFPマウスがworkすることを確認したのち、AOM(Azoxymethane)とDSS(Dextran Sodium Sulfate)によって化学発癌させ、腫瘍を単一細胞レベルに解体して、GFP陽性細胞を回収した。単一細胞から遺伝子を抽出・増幅した上で、PCRを行ったところGFP陽性細胞でSox2の発現が確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでにSox2発現を蛍光GFPによって可視化するマウスモデルが機能することを確認できた。Sox2が発現する食道扁平上皮の傍基底層にみられるが、GFPの蛍光は同部で確認された。Sox2-GFPマウスにAOM(Azoxymethane)とDSS(Dextran Sodium Sulfate)を投与し、約6週で化学的に大腸癌を誘発させた。大腸癌組織切片を蛍光顕微鏡で観察すると、腫瘍細胞と共に間質細胞もGFPを発光しているものがみられた。腫瘍組織から細胞破砕装置(gentleMACSTM Dissociator)を用いて癌細胞を単細胞化し、FACSにてSox2陽性細胞とSox2陰性細胞とに分離した。C1TMSingle-Cell Auto Prepシステムを用いて、 単一細胞から遺伝子を抽出・増幅した上で、PCRを行ったところGFP陽性細胞でSox2の発現が確認でき、一方、GFP陰性細胞でのSox2発現は検出されなかった。
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今後の研究の推進方策 |
腫瘍でSox2陽性細胞とSox2陰性細胞から抽出した遺伝子よりRNAseqを行い、遺伝子発現プロファイルの違いを検討する。解析は大阪大学ゲノム解析センターにて行い、Ingenuity Pathways Analysis(IPA)などを駆使して癌幹細胞に特異的な新規マーカーを同定する。Sox2はそれ自身が癌幹細胞のドライバー遺伝子である可能性と共に、未分化マーカーとしての役割を考えると、他に癌幹細胞ドライバー遺伝子が存在し、それが単一の癌細胞から癌組織を形成する際にSox2の発現が亢進する、すなわち他の癌細胞マーカーの挙動を間接的に反映している可能性がある。この観点から、RNAseqの結果を解析することで新たな癌幹細胞ドライバー遺伝子が見つかる可能性がありこの点に注力して実験を進めたい。
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