Oxaliplatinは大腸癌治療におけるkey drugであるが、奏功率は十分とは言えず、その治療効果においては薬剤耐性が問題となっている。本研究は、薬剤の腫瘍内動態やその動態において銅輸送体が果たす役割を、蛍光X線分析を用いて解明することで、治療反応性の予測や耐性獲得機序を明らかにすることを目的として開始された。 当研究室ではこれまでに、大型放射光施設;SPring-8を利用し工学領域でしばしば用いられる蛍光X線分析技術を用いて、ヒト大腸癌組織における白金製剤の分布の分析に努めてきた。その結果、oxaliplatinを含む術前化学療法後に外科的切除を行った大腸癌症例においては、治療効果の高い症例では腫瘍の変性部分に、一方、治療効果の乏しい症例においては腫瘍内の間質部分に、それぞれ白金の集積を認めることが明らかになった。 今回代表者らは同様の技術を用い、腫瘍組織内での銅をはじめとする白金以外の生体内必須元素の分布の可視化、定量化し得た。本研究の発案の契機となった各微量金属元素の腫瘍組織内分布に関しての主成分分析では、治療有効例では無効例と比較して、銅の分布のみが異なる傾向を示すことが示唆され、それぞれの相関関係を評価したところ、銅は、治療効果のあった群では白金と正の相関(r = 0.701)を示し、治療反応不良群では白金と負の相関(r = -0.504)を示した。しかし多変量解析では、銅濃度と化学療法の効果との間に有意な相関関係は確認できなかった。 今後は、当初計画していたヒトの大腸癌組織の微小環境を再現した3Dモデルやマウスモデルの作成に努めるとともに、白金製剤抵抗性に寄与する輸送体の同定や、癌微小環境における同輸送体の発現を評価し、銅輸送体とoxaliplatin耐性の関連を明らかにする方針である。
|