研究課題
本研究は、胃癌に対する免疫療法が実用化され、一方で奏効率が不十分であることや腹膜播種症例への治療効果が乏しいことを背景として、胃癌における免疫関連因子の発現パターンや、PD-L1をはじめとした免疫学的因子の空間的、経時的な不均一性に着目することにより、免疫療法の効果予測バイオマーカーの確立とリキッドバイオプシー実用化へ応用することが目的である。まず、空間的な不均一性を評価するため、同一症例における胃癌の生検組織と切除組織のPD-L1発現、原発巣と転移巣におけるPD-L1発現について解析した。腫瘍微小環境におけるPD-L1発現の評価方法として、腫瘍細胞と免疫細胞のPD-L1発現の総合的に評価するCombined Positive Scoreが胃癌において有用であることを示し(Yamashita et al. Gastric Cancer)、これを用いて切除検体と生検検体の腫瘍部位のPD-L1発現を解析したところ、正確な評価には複数回の生検が必要であるという結果が得られ、これを報告した(Yamashita et al. Br J Cancer)。次に、経時的な不均一性を解明するために、実臨床を想定し、胃癌細胞株と5FU、CDDP等実際に使用されている殺細胞性抗癌剤を用いた研究を行った。胃癌細胞は殺細胞性抗癌剤への曝露によりPD-L1発現が上昇するという結果が得られ、PD-L1発現上昇に関わる細胞内シグナル経路についても解明しつつある。更に、分子標的薬であるTrastuzumabが免疫エフェクター細胞との相互作用を介して抗腫瘍効果を発することが既に報告されていることを踏まえ、HER2陽性胃癌細胞をTrastuzumabに曝露させたところ、PD-L1発現が上昇するという結果が得られた。本機序に関わる免疫エフェクター細胞を同定するため、NK細胞や単球を分離し、in vivoで実験を行い、NK細胞の関与が示された。上記の実験で確立した手法を用いて、原発巣と転移巣のPD-L1発現の解析、その他の免疫関連因子の発現の解析を進めている。
2: おおむね順調に進展している
胃癌、胃癌腹膜播種症例における免疫関連因子発現パターンを免疫染色で評価するため、PD-L1が腫瘍細胞のみならず免疫細胞にも発現していることに着目し、腫瘍細胞と免疫細胞の総合評価であるCombined Positive Scoreを用いることの妥当性を証明し、これを報告した。また、胃癌におけるPD-L1発現の不均一性intra-tumor heterogeneityが生検によるPD-L1評価の正診率に影響を及ぼす可能性が示唆され、これに対しては複数回の生検がPD-L1発現の正確な評価が有用であることを報告した。評価方法を確立することが出来たため、同一標本を利用して、IDO1、FOXP3発現の評価を進めているところである。次に胃癌治療過程におけるtemporal heterogeneityを評価するため、胃癌腹膜播種細胞株と殺細胞性抗癌剤を共培養してPD-L1の経時的変化を評価した。実際の胃癌治療で使用される5-FUの曝露によってPD-L1発現が上昇することや、発現上昇にはErk,、NF-κB経路が関与することが示唆されており、CDDPがPD-L1発現に与える影響について評価を進めている。更に胃癌におけるKey drugであるTrastuzumabもPD-L1発現上昇に寄与することが分かっており、発現上昇に関与する免疫エフェクター細胞を同定するために全血よりNK細胞や単球を分離し、flow cytometry評価を行い、NK細胞の関与を示唆する結果が得られている。本結果について報告するべく、現在論文投稿を行っている。胃癌腹膜播種における免疫エフェクター細胞の影響についても評価を行うため、胃癌腹水検体を用いたマスサイトメトリーにより免疫細胞を含む血球系細胞、内皮細胞、繊維芽細胞の分離同定に成功しており、in vivo, in vitroの実験準備を進めている。癌の検体における評価方法や実験については順調に結果を報告しており、概ね順調に進行しているといえる。
胃癌におけるPD-L1以外のIDO1、FOXP3等の免疫関連因子について、同一検体を用いて空間的、経時的な発現の不均一性を評価し、PD-L1について報告した結果との関連性について解析する。また、発現のメカニズムに関与する経路を解明するための実験を並行して進める。胃癌腹膜播種における免疫関連タンパク質の関与について、質量分析器を用いた癌性腹水の細胞分画等を解析、シングルセルプロテオミクスによる癌性腹水中の浮遊癌細胞、免疫細胞の分画、細胞膜表面抗原や細胞内タンパク質の発現を検討する。次に、網羅的解析により抽出された胃癌腹膜播種特有の免疫関連遺伝子や免疫関連タンパクの発現調整を行い、機能解析を進める。更に腹水中に含まれる種々の液性因子とともに胃癌腹膜播種より確立した細胞株と免疫担当細胞の共培養を行い、腹腔内の免疫環境に即したモデルを作成し、in vitroでの変化を確認する。In vitroで証明したPD-L1等の免疫関連因子発現の空間的、経時的不均一性について、in vivoで証明を行う。腹水中の胃癌細胞より患者由来同所性異種移植モデルの作成に成功しており、腹腔内移植よる胃癌腹膜播種モデルマウスは既に作成しており、実験系は確立している。網羅的解析により抽出された免疫関連因子、タンパク質の発現を保有している多数の臨床検体(胃癌切除組織500例)を用いて検証し、予後を含めた臨床病理学的因子との統合解析を行う。腹水検体についても約150例保有しており、同検体の血漿サンプルも保有しているため、原発巣との比較解析を行い、リキッドバイオプシーの対象検体として実現性を探索する。
試薬、消耗品等については、医局保管のものを使用することが出来た。研究費は主に試薬などの消耗品購入費に充てたいと考える。
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Ann Gastroenterol Surg
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