研究実績の概要 |
膵癌切除標本のホルマリン固定パラフィン包埋から、癌細胞近傍の間質組織をレーザーマイクロダイセクションで選択的に採取し、質量分析装置により発現タンパク質を網羅的に解析した。このプロテオミクスにより、膵癌の転移に関与する可能性のあるヘモペキシンというタンパク質を同定した。膵癌細胞株にヘモペキシンを添加したところ、癌細胞の浸潤能が有意に亢進した。ヘモペキシンは分泌タンパク質であり、腹水中からも検出できる可能性が考えられた。膵癌のプロテオミクスから得られたヘモペキシンについての結果をPLOS ONE誌に報告した(Suzuki Y,et al.PLoS One. 2020 Jul)。 膵癌症例の腹水を採取するにあたり、我々は手術を検討する膵癌症例全例で審査腹腔鏡を行ってきた。これまで行ってきた146例の膵癌症例の審査腹腔鏡の結果では、切除可能と診断された症例でも24%に転移を認め、切除不能膵癌では45%で転移陽性であった。転移陽性例と陰性例を比較すると、体尾部癌、腫瘍径の大きな症例、腫瘍マーカーCA19-9が高値の症例は有意に転移が多かった。この結果をSurgery today誌に報告した(Takadate T,et al. Surg Today. 2021 May;51(5):686-694)。 以上から腹水のプロテオミクスを立案し、腹水中のヘモペキシンの測定を検討した。膵癌で審査腹腔鏡を施行した症例と、膵癌で開腹手術を施行した症例の全例で腹水の採取・保存を行った。腹水中に発現しているタンパク質を網羅的に解析することはできなかったが、腹水中の腫瘍マーカーと、転移の有無を解析すると、転移陽性例では腹水中のCEA、CA19-9が有意に高値であった。転移症例では血清中よりも腹水中の腫瘍マーカーがより高感度であった。
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