研究実績の概要 |
膵癌では上皮間葉転換(EMT)を介して浸潤・転移を引き起こすが、EMTにはエピジェネティック機構の関与が考えられる。また炎症がEMTに関与することから、 膵癌においては炎症性サイトカインがエピジェネティック機構を介してEMTを引き起こしている可能性が想定される。本研究では、エピジェネティック機構の一つであるヒストン脱アセチル化酵素1(HDAC1)に着目し、HDAC1発現が膵癌のEMTに関与するかを調べ、HDAC1と関連する炎症性マーカーの有無を検討することを 目的とした。 当教室で所有する複数の膵癌細胞株を用いてHDAC1発現を調べ、EMTとの関与について EMTに関連する浸潤能の変化、EMT関連遺伝子/蛋白の変化を評価した。HDAC1の発現が高い細胞株(PSN1)では上皮系マーカー蛋白の発現が低く、EMT関連蛋白の髙値が認められ、浸潤能も高いことが示された。次にHDAC阻害薬であるVorinostatを用いて膵癌細胞株の浸潤能およびEMTの変化について検討した。HDAC1高発現の膵癌細胞株(PSN1, MiaPaCa2)において、HDAC阻害薬によって、浸潤能低下とEMT関連因子の変化を 認めた。HDAC1発現に関わるEMT関連転写因子をqRT-PCR及びWBで検討した。Vorinostatによっていずれの細胞株においてもSLAILおよびZEB1の発現低下を認め、特にsiSLAILでEMT関連因の発現上昇を認めた事から、SNAILがHDAC1に関連する転写因子である事が判明した。 膵癌において、HDAC1高発現は遠隔転移再発のリスク因子であり、HDAC1を阻害することにより、EMTを抑制できる可能性が示唆された。
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