研究実績の概要 |
本年度は、様々な治療経過中に採取した膵癌患者由来末梢血単核細胞(PBMC)を用いて、膵癌関連抗原特異的CD8 T細胞反応をフローサイトメトリーで解析し、各症例の臨床学的因子との関連を検討した。 まず、前年度に引き続き、膵癌患者由来PBMCを既報の膵癌関連抗原ペプチド(CEA、MUC1、TERT、WT1)で刺激した際に生じる抗原特異的CD8 T細胞反応をフローサイトメトリーで解析し、これを観察する実験系を確立した。ここで、PBMC中の抗原特異的CD8 T細胞は非常に頻度の低い細胞集団であると想定されたことから、抗原刺激後のPBMCをIL-2の存在下で10日間培養することにより、その検出感度を上昇させた。抗原特異的CD8 T細胞反応陽性の判定基準は、IFN-γと4-1BBの発現により定義したが、25例の膵癌患者由来PBMCを用いた検討では、44%の症例で、4つの膵癌関連抗原ペプチドのいずれかに対する抗原特異的CD8 T細胞反応陽性が観察された。 さらに、確立された実験系を用いて、術前治療前、術前治療後、術後の3点で採取した57例の膵癌患者由来PBMCによる膵癌関連抗原特異的CD8 T細胞反応を解析した。その結果、各時相における抗原特異的CD8 T細胞反応に関するデータは、年齢、性別、腫瘍マーカー、腫瘍径などの患者背景と相関は示さなかった。そこで、術前治療前後、手術前後など、その経時的変化を解析したところ、術前治療前のIFN-γ 4-1BB double-positiveな膵癌関連抗原特異的CD8 T細胞の頻度が、術前治療に伴う血清CA19-9値の変化率と有意に逆相関することが判明した (R=-0.556, p=0.011)。 これらの結果から、膵癌関連抗原特異的CD8 T細胞反応は術前治療の有効性に関連する可能性が示唆された。
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