大腸癌における遠隔転移を制御する目的で上皮間葉移行(EMT)に着目し、EMTに関連する遺伝子は複数ある中で、PLXND1に着目した。PLXND1は細胞膜1回貫通型蛋白受容体で、腫瘍では乳癌、膵癌、胃癌や大腸癌で浸潤や転移に関与するとの報告がある。PLXND1とEMTの関連は卵巣癌で報告があるのみである。 PLXND1 knockdownで細胞浸潤能、遊走能の低下、5-FU、L-OHPに対する感受性の亢進、上皮系マーカーの上昇、間葉系マーカーの低下を認めた。PLXND1のリガンドであるSEMA3Eの活性体であるp61-SEMA3Eへの変換に関わるFURINを阻害することで上皮系マーカーの上昇、間葉系マーカーが低下した。 次にPLXND1 knockdownとFURIN阻害薬を用い、EMTの変化に伴うsignal解析を行った。PI3K、AKTシグナルについて調べ、PLXND1 knockdownとFURIN阻害薬を用いるとリン酸化PI3K、AKTの低下を認めた。これらの結果より、PLXND1を介するEMTはPI3K/AKTを経由して起こっていることが明らかになった。 Notch signalの阻害剤であるγ-secretase inhibitorを用いたが、上皮、間葉系マーカーともに変化を認めなかった。 EMTはTGF-βを経由するものと、PI3K/AKTを経由するものに分かれる。PLXND1阻害でSMAD2/3を介するTGF-β経路が亢進し、TGF-β阻害でPI3K/AKT経路の亢進を認め、片方の阻害のみではEMTの制御には不十分であった。TGF-βとPI3K/AKT経路の両方を阻害することでEMTが著明に抑制された。FURINはpro TGF-βをTGF-βに変換する働きもあるため、FURINを阻害することで両方の経路の遮断が可能となるため、EMTの制御に有効であると考えられた。
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