研究実績の概要 |
進行食道扁平上皮癌において現在術前化学療法が標準治療であるが, その奏効率は4割弱(Ando N et al.Ann Surg Oncol 2012)とまだ改善の余地が大きい。食道癌は他癌に比べても癌抑制遺伝子p53に変異率が高く, 当科では以前より食道癌においてこのp53に変異をもつことが臨床的に治療耐性に関与することを報告してきた(Yamasaki M et al.Ann Surg Oncol 2010, Makino T et al.Ann Surg Oncol 2010)。したがって変異p53遺伝子が食道癌の重要な治療標的になり得ると考え, 我々は変異p53機能回復薬(とくにPRIMA-1MET)に着目して, 先行研究としてとくにp53ミスセンス変異を有する食道癌への単剤投与による抗腫瘍効果を報告してきた(H.hurukawa, Cancer Science 2017)。本研究では,食道癌化学療法の奏効率の向上のための有効な「新規複合化学療法」を確立し臨床導入することを目的として, 食道癌に対する変異p53機能回復薬と抗癌剤との併用の有効性およびその相乗効果のメカニズム(p53依存性, p53非依存性)を検証することとした。具体的にはIn vitro実験, 細胞株を用いた皮下腫瘍モデルマウスに加え, 臨床検体によるPDX(Patient-derived xenografts)モデルやオルガノイドを用いたより臨床に近い実験計画とし, のちの臨床応用を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.食道癌細胞株を使った変異p53機能回復薬と抗癌剤との併用効果の解析 ①食道扁平上皮癌細胞株のうちp53ミスセンス変異株(TE1, 4, 5, 8, 10)と, p53ナンセンス・フレームシフト変異株(TE9, 14), p53野生株(KYSE410, 960)を用いて,PRIMA-1METと5-フルオロウラシル/シスプラチン/ドセタキセルとの併用効果をisobologram法にて評価した。②PRIMA-1METと抗癌剤併用下でのp53下流のapoptosis経路と増殖抑制経路のシグナル解析(PTEN, Nf-κB, Jnk, p21, p63, p73など)をwestern blotにて評価した。③PRIMA-1MET+抗癌剤併用投与前後での食道癌細胞内グルタチオン酸濃度解析を行った。 2.食道扁平上皮癌皮下腫瘍モデルマウスによる併用効果と作用機序の解析 ①食道扁平上皮癌p53ミスセンス変異株を用いた皮下腫瘍モデルマウス(BALBc nu/nu)を作製し, 抗癌剤とPRIMA-1METとの併用効果, 体重, 臓器障害を評価した。②PRIMA-1METと抗癌剤併用下でのp53下流のapoptosis経路と増殖抑制経路のシグナル(Bax, Puma, Noxa, AIP1, Bcl-2, p21, p73等)解析を,TUNEL assay, 免疫染色, Western blotにて評価した。
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今後の研究の推進方策 |
食道癌患者検体を用いたPDXマウス/オルガノイドでの併用効果の検証 ①食道扁平上皮癌p53ミスセンス変異型/p53野生型を有する患者検体を用いPDXモデルマウス/オルガノイドを作製し, 抗癌剤+PRIMA-1METの併用効果を評価する。 ②PRIMA-1MET+抗癌剤併用投与前後でのp53下流のapoptosis経路と増殖抑制経路のシグナル解析。評価方法:TUNEL assay, 免疫染色, Western blot ③PRIMA-1MET+抗癌剤併用投与前後での食道癌細胞及び培養上清microRNAアレイ解析。
上記を予定している。食道癌でのPDXモデルやオルガノイド作成は難易度が高いが、当科のでの豊富な手術サンプルを用いて作成していく予定である。
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