研究実績の概要 |
膵癌166例の切除標本を用いて,抗ヒトCD70抗体にて免疫染色を行った.CD70高発現を認めた42例を高発現群,その他122例を低発現群と定義し,両群間の臨床病理学的因子及び予後について比較検討を行なった.さらに,種々の手法を用いて,機序の解析を行なった. (1)臨床的意義:年齢,性別,術前治療の有無,T因子,N因子,組織型,術後補助化学療法の完遂率は,両群間で有意差を認めなかった.全生存率では両群間に差を認めなかったが(P=0.256),累積血行性転移率は発現群で有意に高率であった(P=0.017).術後補助化学療法完遂症例(N=110)に限り解析を行うと,発現群は有意に予後不良であり(P=0.027),累積血行性転移率についても有意に高率であった(P=0.005).(2)腫瘍内浸潤T細胞との関連:発現群において,CD8陽性T細胞の腫瘍内浸潤の抑制傾向(P=0.09),及びFOXP3陽性T細胞の誘導傾向(P=0.07)を認めたが,有意差を認めなかった.(3)上皮間葉転換との関連:凍結標本を用いた発現群におけるmRNAの解析では,CD70とVimentin, Snail, Twistら間葉系細胞マーカーとの正の相関を認めた.(3)膵癌細胞におけるCD70機能解析:CD70発現株であるPANC-1細胞を用いて,siRNA法による検討を行った.CD70 knockdownにより,E-cadherinの増加,Vimentin, Snail, Twistの減少を認め,また,増殖能及び遊走能は低下した.さらに,Gemcitabineにより,腫瘍の増殖は抑制されたが, CD70 knockdown により相加的に増殖抑制効果の増強を認めた. 膵癌において,CD70発現は多様な機序により腫瘍進展に関連し,今後,新規治療標的となる可能性が示唆されている.
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