私は大腸がん細胞が有するVEGF受容体に着目した研究を行っている。これまでにVEGF阻害薬およびVEGF受容体阻害薬を大腸がん細胞に添加すると遊走能と浸潤能が亢進することを報告している。本研究は大腸がん細胞におけるVEGF受容体の役割を解明することを目的としており、大腸がん細胞が発現する複数種類のVEGF受容体のうちどれを阻害した際に遊走能・浸潤能の亢進が生じるか検討を行った。昨年度までに、VEGF受容体の1に対する特異的阻害剤により遊走能が亢進すること、そのメカニズムとしてc-Metのリン酸化亢進が認められることを明らかにしており、VEGF受容体の1はVEGF阻害薬使用時における遊走能の獲得に重要な役割を有する可能性を見出している。 本年度は、細胞膜表面上のVEGF受容体の1の有無で細胞を分離するプロトコルの確立と、臨床検体におけるVEGF受容体の蛍光免疫染色を実施した。細胞分離のプロトコルについては、条件検討を行い細胞が分離できることを確認した。分離した細胞を用いた検討では、受容体発現の有無により遊走能が異なることが示唆された。臨床検体の免疫染色では、染色プロトコルを確立した後、計49症例の染色を実施した。VEGF受容体の1について、腺腫の症例では10例中9例で発現が認められなかったが、腺癌の症例では半数以上で発現が認められた。受容体の発現と大腸がんの進行度の関連についてはさらなる検討が必要であると考えている。
|