日本人の食道扁平上皮癌患者の約20%に変異が存在するとされるEpigenetic regulator のlysine (K) methyltransferase 2D (KMT2D)遺伝子の機能や、そのTarget geneやその相互作用の解明は進んでいない。食道癌切除検体の免疫染色からKMT2Dの発現低下は予後不良と化学療法感受性の悪いこととの関連が示された。また、KMT2Dの正常機能はHistone3 Lysin4のモノメチル化(H3K4me1)による主にエンハンサー領域のユークロマチン化によって転写活性を調整することであるため、同患者サンプルにおいてH3K4me1で免疫染色を行ったところ、H3K4me1の低発現は予後不良と化学療法感受性の悪いことが示された。この二つの因子を掛け合わせると、KMT2D、H3K4me1のいずれかが低発現であることは共に高発現であることに比較して無再発生存期間、全生存期間ともに予後不良であり、化学療法感受性が悪かった。siRNAによるKMT2Dの発現低下調整をした食道癌細胞株において、化学療法感受性が低下していた。この結果は食道癌で一般的に使用される抗癌剤のドセタキセル、シスプラチン、フルオロウラシルのいずれでも見られていた。Target geneの検索を目的としてTCGAデータベースからGene Set Enrichment Analysisを行い、紡錘体形成や酸化的リン酸化、活性酸素、DNA修復といったGenesetとの関連が示唆され、上記の発現低下調整をした細胞株において紡錘体形成と活性酸素に関連するいくつかのgeneとの関連が見られた。2020年度は上記結果について、学会発表および論文作成を行った。
|