研究課題/領域番号 |
19K18159
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
仲井 希 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(医学), 助教 (50811717)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 癌関連線維芽細胞 / CAF / TIMP-1 / 遊走 / 大腸癌 |
研究実績の概要 |
癌細胞のまわりに存在する癌関連線維芽細胞(CAF)が新たな治療対象として近年注目されている。CAFが癌の浸潤や転移にも関与しているかは報告が少なく分かっていない。本研究の目的はCAFが大腸癌細胞の浸潤や遊走にも関与しているのか明らかにすることである。 本年度の研究成果として、大腸癌細胞株をCAFと共培養することで、いくつかの大腸癌細胞株の浸潤・遊走が亢進する結果を得た。これをもとに共培養の培養上清に対してサイトカインアレイを行った所、数種類のTissue inhibitor of matrix metalloproteinase (TIMP)とmatrix metalloproteinase(MMP)の分泌増加が示唆される結果を得た。このうちのTIMP-1に我々は着目した。TIMP-1は臨床的に多くの癌種の患者において血中濃度上昇が報告されており、大腸癌患者においては血中TIMP-1濃度と進行度・転帰との相関関係が報告されている。また基礎研究においてはTIMP-1が腫瘍増殖、アポトーシス抵抗性、薬剤感受性低下を促進するといった結果が他癌種で報告されているが大腸癌におけるTIMP-1の役割は明らかでない点が多い。 我々はTIMP-1を直接大腸癌細胞株に曝露する事で大腸癌細胞の浸潤や遊走が亢進するか検討し、いくつかの細胞株および実験手法ではそれが示唆される結果を得たが普遍的な結果とまでは結論づけられていない。また、手術標本の免疫組織学的検討を行ったがこちらも癌の深達度とTIMP-1の関連を結論付ける結果は得られていない。一方大腸癌細胞株とCAFの各培養上清を検討した所、TIMP-1分泌は大腸癌細胞株よりもCAFからの方が大幅に多いことを示唆する結果が得られている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大腸癌細胞株をCAFと共培養することで、いくつかの大腸癌細胞株の浸潤・遊走が亢進する結果を得た。これをもとに共培養の培養上清に対してサイトカインアレイを行った所、数種類のTissue inhibitor of matrix metalloproteinase (TIMP)とmatrix metalloproteinase(MMP)の分泌増加が示唆される結果を得た。このうちのTIMP-1に着目した。 TIMP-1を直接大腸癌細胞株に曝露した上で、浸潤能の変化をtranswell matrigel invasion assay、遊走能の変化をtranswell assayおよびwound healing assayを用いて検討した。結果として浸潤能の検討ではいくつかの細胞株で亢進を示唆する結果を認めたが有意なものではなかった。遊走能の検討においてtranswell assayではやはり有意な結果が得られなかったが、wound healing assayにおいては特定の細胞株で遊走能亢進を示唆する結果を得た。 大腸癌細胞株およびCAFからのTIMP-1分泌に関してTIMP-1 mRNA発現をRT-PCR、分泌をELISAを用検討した。RT-PCRの結果としてTIMP-1 mRNA発現は各種大腸癌細胞株においては同程度、CAFは細胞株により数値が大きく異なった。しかし培養上清のELISAにおいては大腸癌細胞株よりもCAFからのTIMP-1分泌がはるかに多いことを概ね示唆する結果が得られた。 臨床的な癌組織においてTIMP-1の発現・分布がどうか当科の手術標本にぴて免疫組織染色を用いて検討したが、数種類いずれの検体においてもTIMP-1の染色が得られなかった。 また、手術標本の免疫組織学的検討を行ったがこちらも癌の深達度とTIMP-1の関連を結論付ける結果は得られていない。
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今後の研究の推進方策 |
TIMP-1曝露によって大腸癌細胞株の浸潤・遊走能が亢進するか、上記実験手法の技術的な問題も考慮されたためさらなる検討が必要である。細胞株によって感受性が異なるのならその機序の検討も必要と考えている。 各種細胞、特にCAFからのTIMP-1分泌は癌細胞との共培養で変化するか今後検討していく。変化がある場合は、それがどのような機序によるのか検討していく見込みである。またCAFはその株によって性質が異なるため、より多くのCAF株における検討も必要と考えている。 手術標本における免疫組織染色にも技術的な問題が考慮されたためさらなる検討が必要である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は物品の購入費用が比較的に安価に収まったことと、各種実験機器が既に本研究室および本学共同利用施設に備わっていたためそれらの購入費用を要さなかったこと、により次年度使用額が生じた。 次年度以降はさらなる研究のため各種薬剤や実験備品の購入を検討している。
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