研究実績の概要 |
大腸癌幹細胞(CSC)の分離は、様々な癌幹細胞マーカー(CD44,CD133,ALDH1)を用いて行い最も再現性が得られたALDH1を採用とし、大腸癌細胞株T84, HT29からCSCを樹立した。一方で切除検体からも樹立を試みたが、成功率が低く本研究での使用は見送り今後の課題とした。 次にCSCと元の細胞株をペアとして,網羅的遺伝子解析を行った。結果,Caイオン関連分子では電位依存性Caチャネル、MCUB(ミトコンドリアへのCaイオン取り込みに関連)が2株両者で高発現していたが、我々の仮説であったCaイオンダイナミクスに関連するSERCAなどの発現変化は認められなかった。一方で、細胞容積調整関連分子であるAQP1, CLCN5, LRRA8AがCSCで高発現していた。これらを介した細胞内イオン濃度調整による細胞容積変化は、低浸透圧刺激への耐性、遊走能、アポトーシスに関連することが知られている。そこで、大腸CSCがこれら分子の発現上昇を介してより高度な細胞容積制御機構を有し、低浸透圧耐性や、遊走能亢進、アポトーシス回避能を獲得しているという新規仮説を立案、検証を進めることとした。 まずMultisizerを用いて低浸透圧刺激下での容積変化を測定したところ、CSCでは、低浸透圧刺激によるイオン勾配に従った水流入、細胞容積増大が抑制されており、低浸透圧刺激による破裂やアポトーシス誘導に対して抵抗性を有する可能性が示唆された。さらに、低浸透圧刺激後増殖アッセイを行ったところ、CSCは低浸透圧刺激による殺細胞効果に対して耐性を有していることが確認された。 この新たな知見は、大腸癌手術時の腹腔、直腸内洗浄時の低浸透圧曝露に対してCSCのみ残存する可能性があることを示しており、今後はこの現象をCSCに対するknockdownや阻害剤などを用いてさらに検証した上で、世界に発信していく予定である。
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