本研究は末梢動脈疾患に対する治療法である自家静脈を用いた動脈バイパス術における合併症であるグラフト内膜中膜肥厚の発生メカニズムを解明することを目的とした。外膜由来線維芽細胞(Fibs)が内膜中膜由来平滑筋細胞(SMCs)の増殖制御に関わっており、その細胞間連絡を細胞外小胞(エクソソーム)を介して行っていると仮説を立て、検証した。 前年度までの研究結果として、ヒト大伏在静脈由来のFibs及びSMCsからの培養上清中に分泌されたエクソソームの抽出、Fibs由来のエクソソームをSMCの培養液中に添加すると、Fibs由来エクソソームがSMCs細胞内に取り込まれ、SMCの増殖能に影響を与えたことを確認した。それにより、エクソソームによる増殖制御メカニズムが存在する可能性を見出した。また、本年度はFibs及びSMCs5ペアを用いて、NGSによりFibs由来エクソソーム特異的に含まれているマイクロRNA(miRNA)を解析した。結果として確認された2143種のmiRNAの内、発現量に有意差を認めたものが127種、このうちFibsにおいて発現が確認され、かつSMCより2倍以上の発現を認めたエクソソーム内miRNAは45種類であった。これらの遺伝子候補の中に、SMCの増殖を制御する主要な役割を持つmiRNAがある可能性が示唆された。今後は、候補遺伝子の更なる絞り込み、機能評価の実験系の確立を目指し、引き続き研究を進めていく予定である。
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