本研究では人工血管の代わりに脱細胞化したウシ心膜を用いて、それに生体吸収性ステントを組み合わせたオリジナルのステントグラフトを作成し、豚を用いた実験モデルにおけるステントグラフトの生体反応的・力学的側面の向上の可能性を模索し、さらなる症例の適応拡大と治療成績向上の可能性を図ることを目的としていた。当初予定していた牛心膜の脱細胞化については、本学における動物実験施設の移転作業の大幅な遅延および今回のコロナ禍のため、学内での新規実験の禁止などがあり、達成できていない。その代わりに我々は生体吸収性素材であるPolycaprolactone(PCL)を材料として、3Dプリンター技術である電子紡績法を応用し人工血管を作成した。共同研究者であるブラジルのRio Grande大学のPranke教授とたびたび連絡を取り、薄さ、編み方など品質の改善に努めるとともに、日本国内において品質に優れたPCLグラフトの入手を試み、3Dプリンター技法に優れた知見を持つ富山県産業技術研究開発センター生活工学研究所と共同研究の提携を新たに結び、らせん状編み方を用いた新たなPCLグラフトを試作品として共同開発した。ラットの腹部大動脈置換モデルで評価を繰り返し行い良好な中期開存性を確認したが、8か月経過してもポリカプロラクタンは完全には吸収されておらず、本研究の主題である生体吸収性素材を用いたステントグラフト開発のためにはマテリアルのさらなる改良が必要であることが示唆された。一方、生体吸収性ステントについてはマグネシウム骨格も用いた実験を行っており、現在も継続中である。
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