研究課題
大動脈弁の石灰化が発症・進行する因子として、これまでに血流ストレスやLDLによる影響や、マクロファージやT細胞による組織障害、炎症などの影響が示唆されている。大動脈弁の石灰化を制御するシステムを解明することを目的として、ヒト大動脈弁組織において、石灰化の程度と細胞傷害性T細胞・単球/マクロファージ・制御性T細胞・近年癌領域注目されている免疫チェックポイントシグナルprogrammed cell death-1 ligand(PD-L1)タンパク発現の程度について検討した。2010年から2017年に当科で大動脈弁狭窄症の診断で弁置換施行した症例のうち、病理標本が使用可能であった53例を対象とした。平均年齢73(56-87)歳、男性25人。ヒト大動脈弁組織に対して免疫組織化学的分析を行い、PD-L1発現と大動脈弁狭窄症の重症度、CD8陽性Tリンパ球、CD163陽性マクロファージ、FOXP3陽性制御性Tリンパ球(Treg)などの免疫細胞の浸潤、大動脈弁狭窄症の重症度との関係を精査した。免疫染色の結果、石灰化した大動脈弁において有意にPD-L1タンパクが発現していることが判明した。またPD-L1の発現はCD8陽性Tリンパ球とCD163陽性マクロファージの浸潤と相関がみられた。また、大動脈弁狭窄症の重症度が高く、石灰化が強い組織においては、FOXP3陽性Tregの浸潤度は低く、CD8陽性Tリンパ球、CD163陽性マクロファージの浸潤度が高かった。つまり、弁の石灰化が存在すると免疫細胞浸潤と免疫チェックポイントタンパクの発現も強くなっていた。大動脈弁狭窄症症例の切除弁組織において、石灰化進行に対して免疫細胞浸潤と免疫チェックポイントタンパクが影響を及ぼしている可能性が示唆される所見が得られた。
すべて 2021
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JTCVS Open
巻: 5 ページ: 1-12
10.1016/j.xjon.2020.11.007