高齢化社会において、人工心肺装置を使用する体外循環を用いた心臓・大動脈手術における適切な脳保護法の確立は喫緊の課題である。まず初めに我々は選択的脳灌流モデルラットの作成に成功した。選択的脳灌流モデルラットを作成する上においては、椎骨動脈焼却処置ラットを作成、有意差を持って椎骨動脈を焼却離断した場合に総頸動脈圧が低下することを見出した。このラットに擬似的な体外循環を確立することで、選択的脳灌流モデルラットとした。 このモデルにおいては摘出脳標本を好銀染色することで、脳の早期障害を検出し、脳保護法の一つである選択的脳灌流体外循環においても術後脳機能障害が惹起されることを見出した。 また、水素ガスは投与が簡便で安全性が高い医療用ガスである。作用機序は解明されていない点が多いが、酸化ストレス、炎症、細胞死、代謝に対して多面的、効果的な作用を有しており、主に虚血・再灌流障害の予防に有効とされてきた。これを体外循環に応用することで、選択的脳灌流体外循環によって惹起される、術後せん妄、短期記憶障害、高次脳機能障害を抑制することが予想される。その結果、これまでに確立されてきた至適脳灌流法や低体温法に加えて、新たな視点からの術後QOLの向上、生命予後改善へと繋がる革新的な治療法になりうると考え、研究を立案した。水素ガス吸入装置の設備面の問題から水素ガスの効果を検証する実験を行うことが困難であったため、今後も継続した検証が必要である。
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