心臓血管外科手術においては、手術侵襲による炎症が術後の経過に影響を及ぼす。一方、近年水素ガスが抗酸化作用・抗動脈硬化作用を有することが示唆されている。水素ガスが手術侵襲による炎症を抑えるメカニズムを術中に比較的容易に採取可能な脂肪組織を用いて証明する研究を開始した。 脂肪細胞から分泌されるアディポサイトカインの一種、ケメリンは抗炎症作用、 血管新生作用など種々の作用を有する。ケメリンの血中濃度はbody mass index、血漿中トリグリセリド濃度、血圧などと正に相関していると言われており、2型糖尿病やメタボリックシンドロームとの関連が示唆され動脈硬化との関わりもあると言われている。また、後述する炎症・動脈硬化のマーカーを中心に、脂肪組織に対する水素の抗炎症動脈作用を基礎実験的手法を用いて証明し、その成果を臨床応用へと繋げることを目的とした。 実際の患者の皮下、胸骨下、心臓表面、大動脈周囲の脂肪を採取し、それぞれに水素ガスを添加した群としなかった群とに分け、ケメリン・アディポネクチン・TNF-α・HO-1・IL-1β・SIRT-1・8-OHdGのmRNAの発現を調査している。実験系は既に確立され、検体も順調に採取されて水素の添加も安定して施行できており、水素の抗炎症作用が示唆され始めている。 今後は引き続きmRNAの測定を継続して水素の抗炎症作用を証明し、さらに水素の反応時間を増やすことでmRNAだけでなくタンパク質の定量も予定している。
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