研究課題/領域番号 |
19K18196
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研究機関 | 天理医療大学 |
研究代表者 |
曽山 奉教 天理医療大学, 医療学部, 講師 (10811797)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 体外循環 / 赤血球 / チオレドキシン / レドックス / 酸化ストレス / チオール基のラベル化 |
研究実績の概要 |
体外循環中の赤血球溶血の原因が人工肺への過剰な酸素吹送による赤血球への酸化ストレスによるものと考え、赤血球内抗酸化物質であるチオレドキシンのシステイン残基(チオール基)の酸化修飾に着眼し研究を開始した。 1)リコンビナントTRX(rTRX)は過酸化水素濃度の上昇に伴い二量体を形成した。また、Protein-SHifter Plus(SB12:DOJINDO)によるチオール基のラベル化では、過酸化水素濃度の上昇に伴いrTRXのチオール基数の減少を観測した。2)過酸化水素が赤血球中のTRXのチオール基数に及ぼす影響を確認するため、全血を過酸化水素溶液で曝露し、同じくProtein-SHifter Plusによるラベル化を行った。しかし、過酸化水素濃度とは無関係に赤血球TRXは酸化状態であった。ラベル化の前処理で使用する溶血液中の酸素分圧は約180mmHgであり、溶血操作により赤血球TRXが酸化されていると考えられた。3)PEG-PCMal(SB20:DOJINDO)を用い、赤血球溶血とチオール基のラベル化を同時に行ったところ、採血直後の赤血球TRXのチオール基数は減少せず、赤血球中のin vivoのTRXを還元状態で検出した。4)酸素ガスによる全血のbubbling、密閉容器(プレザパックII:TERUMO)による全血の酸素化、および過酸化水素溶液による赤血球の酸化を試みたが、いずれの方法においても赤血球TRXのチオール基の酸化はみられなかった。5)過酸化水素溶液による赤血球の酸化により、過酸化水素濃度の上昇に伴い高感度に酸化還元状態が変化する新たな分子を検出した。 これらの結果は、赤血球中のTRXは高濃度の酸化ストレス環境においても還元状態を維持することを示唆している。一方、本検討で検出した赤血球中の分子は、新たな酸化ストレスのマーカーになりうる可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
赤血球内チオレドキシンは過酸化水素溶液とは無関係に溶血操作により酸化することが示唆された。この問題を解決するため赤血球溶血とチオール基のラベル化を同時に行う方法を確立するのに時間を要した。 また、赤血球内チオレドキシンは高濃度の酸化ストレス環境においても還元状態を維持することが示唆されるまでに時間を要した。
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今後の研究の推進方策 |
(1)本検討で検出した新たな酸化ストレスマーカーに関し、質量分析を以って同定する。また、in vitroの実験を円滑に進めるため、ヒト慢性骨髄性白血病細胞由来細胞株(K562)の細胞培養、およびヘミンによる赤血球への細胞分化誘導を行い、新たな酸化ストレスマーカーの解析を行う。必要に応じてベクターを使用し、新たな酸化ストレスマーカーの性質を詳細に解析する。 (2)面光源で赤血球に近赤外光(800nmおよびその近傍、比較対照には白色光)を照射し、新たな酸化ストレスマーカーの還元能およびシステイン残基酸化修飾を解析することで、近赤外光の有無による赤血球内抗酸化物質保護効果を評価する。 (3)体外循環中に発生する酸化ストレスが赤血球内抗酸化物質に与える影響を確認するため、本研究への同意を得た体外循環症例の血液を用い、(1)で解析した新たな酸化ストレスマーカーの酸化還元状態をモニタリングする。
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次年度使用額が生じた理由 |
赤血球溶血とチオール基のラベル化を同時に行う方法の確立、および赤血球内チオレドキシンは高濃度の酸化ストレス環境においても還元状態を維持することが示唆されるまでに時間を要したため、面光源装置の初年度購入を先送りした。 なお、本検討で検出した新たな酸化ストレスマーカーの性質を詳細に解析するにあたり、計上した面光源装置の経費を流動的に使用する可能性がある。
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