研究課題
本研究では、大動脈解離における非受容体チロシンキナーゼSykの役割を明らかにし、大動脈解離に対する保護メカニズムを解明する。我々はβアミノプロピオニトリルとアンジオテンシンII(BAPN+AngII)の持続投与によって、14日以内にマウスの約80%で大動脈解離を生じるモデルを確立した。活性化(リン酸化)されたSyk(pSyk)に対し免疫組織化学染色を行ったところ、解離発生後の大動脈壁でSyk活性を認めた。pSykと平滑筋αアクチン に対する二重蛍光抗体法では、Sykは浸潤炎症細胞でだけでなく、解離組織の平滑筋細胞でも活性化することが示された。ウェスタンブロット解析では、解離刺激後 3日目の解離発生前と薬剤投与14日目の解離発生後に再活性がみられた。Syk活性化の意義を評価するため、解離刺激前よりfostamatinib(特異的Syk抑制薬)をマウスに投与した。fostamatinib投与群は、コントロール群と比較してより重篤な解離の進展を認め、大動脈破裂によるマウスの死亡率も悪化した。トランスクリプトーム分析では、fostamatinibが免疫関連分子の発現を抑制することが分かった。また、fostamatinibにより制御性T細胞(Treg細胞)の細胞マーカーであるFOXP3が抑制されることが分かった。また、BioPlexによるサイトカインの評価ではTreg細胞のエフェクター分子である血清IL-10も抑制された。これらの発見は、Syk活性が大動脈解離病態において大動脈組織保護的に作用している可能性を示唆した。
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