本研究は、MET異常肺がんに対するMET標的治療の過程で必ず問題となる獲得耐性について、多彩な耐性に関与する機序を明らかにし、その耐性機序スペクトル別に最適な耐性克服の治療戦略構築を目的としている。 令和3年度は、初年度に樹立したMET遺伝子の高度増幅を有する肺癌細胞株であるH1993とEBC1細胞株のクリゾチニブ(MET阻害薬)耐性株における、薬剤耐性機序の解析を令和2年度に引き続き行った。両細胞株の親株および耐性株のRNAシークエンスによる網羅的遺伝子発現解析を実施し、得られた候補分子に対してin vitroでの検証実験を行い、以下の3種類の異なる新規耐性獲得機構を明らかにした。①元々有していたMET遺伝子のコピー数異常(増幅)の消失に伴うMET遺伝子発現の著明な低下、さらにEGFR遺伝子の変異およびコピー数異常(増幅)獲得による、METシグナル経路からEGFRシグナル経路への細胞の増殖・生存依存経路のスイッチによる耐性獲得。この耐性株はEGFR阻害薬であるアファチニブ単剤へ感受性を示し、さらにクリゾチニブとアファチニブの併用による強い増殖抑制効果を認めた。②SERPINE1遺伝子の発現上昇による耐性獲得。この耐性株ではSERPINE1 のRNAi干渉および阻害剤併用により耐性克服を確認した。③上皮間葉移行(EMT)による細胞形質転換およびMEK/MAPK経路活性による耐性獲得。この耐性株ではクリゾチニブにMEK阻害剤であるトラメチニブを上乗せすることにより強い増殖抑制効果を認めた。 本研究結果は論文にまとめ、現在投稿準備中である。
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