悪性胸膜中皮腫は稀な疾患であるため、まずは検体を得やすい肺腺癌において、新規治療薬の標的となりうる代謝機構の同定を試みた。TCGAデータベースを用いてATP 関連がん代謝としてGlycolysis型と酸化的リン酸化を主に使用するOxphos型に分類した。 酸化的リン酸化を利用する肺腺癌が存在することが示唆されたことから、肺腺癌細胞株において酸化的リン酸化の重要な役割を担うミトコンドリア呼吸を標的とした阻害薬を使用したところ、正常細胞ではほとんど変化が認められない低濃度で細胞増殖抑制効果が認められた。 次に同様に悪性胸膜中皮腫を対象としてTCGAデータベースを用いて組織別(上皮型、二相型、肉腫型)の代謝タイプを検討した。解析には悪性胸膜中皮腫のデータセットであるTCGA-MESOを用いた。個々のサンプル毎にGlycolysisもしくはOxphos typeの関連遺伝子発現が全体的に高いサンプルと低いサンプルに分かれる傾向は認めたが、組織型毎に特徴付けられる発現遺伝子の同定には至らなかった。二相型、肉腫型は悪性胸膜中皮腫の中でも稀な組織型であり、TCGAデータベースにおいてもサンプル数が少ないことが原因の1つとして考えられた。 続いてGEOのデータベースを用いて正常組織と悪性胸膜中皮腫の遺伝子発現パターンの比較を行った。解析は悪性胸膜中皮腫と正常胸膜の患者検体を含むデータセットを用い、GlycolysisとOxphosに関連する遺伝子に正常組織と悪性胸膜中皮腫検体を用いてヒートマップの作成を行った。正常組織と比較すると上皮型よりも二相型や肉腫型で、発現量に差がある遺伝子が多い傾向であった。これらの中で悪性胸膜中皮腫と関連が強いと考えられる解糖系代謝に関わる遺伝子Xを候補分子として同定した。この候補分子を標的とした治療開発の研究をさらに進めていく予定である。
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