肺癌はわが国において最も死亡者数の多い癌腫である。その治療法としては手術や放射線治療、薬物療法があるが、早期肺癌においては手術が第一選択である。肺癌手術の標準術式は肺葉切除であるが、最近肺葉切除後の肺静脈断端に血栓が発見されることがあるという報告が増えてきている。そのほとんどは左肺上葉切除後の左上肺静脈断端に認めており報告によると左肺上葉切除症例のうち10%を超える症例で左上肺静脈断端の血栓を認めるとされている。血栓が可動性を有する場合は塞栓症をきたす可能性が高く、特に脳梗塞の報告はしばしば散見され致死的合併症となりうる。肺静脈断端の血栓形成については未だ不明であり、予防策としてさまざまな方法が試みられたが、依然として有効な予防策を得ていないのが現状である。肺静脈断端の血栓形成の原因を解明しそれに対する的確な対処をすることで血栓形成の予防、ひいては致死的合併症の予防につながると考えられる。 今回我々は肺葉切除の術後7日目にMRI撮影を行い4D flow MRIの構築を行った。肺葉切除した後の残った3本の肺静脈からの血流が左房内でどのように分布するかを3色で色分けしたベクトルで表示することで各肺葉切除別に観察し乱流の特徴を主観的に評価でき、左房内の血流の可視化に成功した。この映像を時間軸に沿って動画で評価することでこれまで指摘されてきたように左上葉切除後においては左房内の乱流が多いことが分かった。さらに肺静脈断端の残存導管における断面積、導管の長さ、肺静脈断端の血流速度(flow)、流速(velocity)、エネルギー損失といったパラメータを計測することで乱流の程度を定量的に評価することができるようになった。これにより肺静脈断端の血栓リスクを予想することにつながると考えられる。
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