研究課題
悪性中皮腫は進行が早く難治性のがんであり,予後不良である.診断の正確性と迅速性が求められるが,種々の悪性腫瘍に類似した多彩な組織パターンを示すため診断に難渋することがある.複数の陽性・陰性マーカーを用いて診断を行うが,偽陽性や偽陰性を示すこともあるため,新たな診断マーカーの開発が求められている.当講座では,タイト結合膜貫通分子であるクローディン(CLDN)ファミリーのうち,CLDN15が中皮腫で過剰発現していることを見出している.本研究では,タイト結合分子のひとつであるCLDN15に着目し,悪性胸膜中皮腫の新規診断・治療標的としての意義を明らかにすることを目的としている.まず,ラットを用いて抗ヒトCLDN15モノクローナル抗体を作製し,当院および共同研究病院での悪性胸膜中皮腫症例のパラフィン切片を免疫染色した.Immunoreactive score法にて染色性を半定量化し,悪性胸膜中皮腫の診断マーカーとして現在用いられているカルレチニンやD2-40,WT-1との比較を行った.悪性胸膜中皮腫に対する抗CLDN15抗体の染色性は高く,診断マーカーとして十分使用できる可能性があることを明らかにした.また,CLDN15の発現量を低発現群と高発現群に分けKaplan-Meier曲線を用いて比較したところ,高発現群で有意に生存期間が長かった.CLDN15は悪性胸膜中皮腫の予後予測マーカーとして有用な可能性も示唆された.今回,当講座で作製した抗CLDN15モノクローナル抗体は特許を取得している.現在,本研究における論文を投稿中である.
3: やや遅れている
・CLDN15の細胞内ドメインを認識する特異抗体の作製:鑑別診断のため,CLDN15細胞内ドメインに対する単クローン抗体を作製した.・悪性中皮腫症例におけるCLDN15発現の臨床病理学的意義:本学附属病院および本学呼吸器外科学講座関連施設で診断された胸膜中皮腫症例と肺腺癌症例のパラフィン切片を免疫組織染色し,現存の中皮腫マーカーであるカルレチニン,D2-40,WT-1とCLDN15を比較検討したところ中皮腫陽性マーカーとしての妥当性を確認することができた.また,中皮腫における発現スコアと生存期間や臨床病理学的因子(臨床病期,組織型,浸潤範囲,脈管侵襲,リンパ節・遠隔転移)との相関を検討したところ,CLDN15の予後予測マーカーとしての可能性も明らかになった.・しかしながら,一部の研究がコロナ禍のため滞ってしまい,研究期間を1年延長して継続する予定である.
1.中皮腫の新たな血清診断法と分子標的療法の開発に向けた基盤研究:①単クローン抗体を用いたELISA法にて各分子の血中濃度を測定する.②CLDN15の高発現中皮腫細胞株を各々の抗細胞外ドメイン抗体で処置し,悪性形質に対する阻害効果を評価する.2. 中皮腫におけるCLDN15シグナル伝達機構の探索:CLDN15のC末細胞内ドメインには複数のチロシン残基が脊椎動物間で良く保存されていることから,シグナル伝達への関与が考えられるため,これを検証する.①中皮腫細胞株における両分子のチロシンリン酸化状態を免疫沈降法にて評価する.またこのチロシンリン酸化が各阻害抗体で減弱することを証明する.②着目したチロシン残基をアラニン残基に置換した変異CLDN15発現ベクターを構築する.これらの変異または野生型ベクターを「遺伝子ノックアウト中皮腫細胞株」に導入し,チロシンリン酸化や性状を評価する.③SFK/PI3K/AKTシグナルは中皮腫の悪性形質を増強するが,細胞間接着分子の会合でもしばしば活性化される.そこで、CLDN15会合がこれらのシグナルを活性化させるかを検証する.またこの活性化が各阻害抗体で減弱するかを明らかにする.
コロナ禍のため,一部の研究が滞ってしまったことなどが理由に挙げられる.今後は論文投稿などにも使用する予定である.
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