予後不良を引き起こす因子が癌幹細胞の活性化に関与するとの仮説を立てて、肺癌の多くを占める肺腺癌を標的とし、予後に影響を及ぼす因子を解析した。抗酸化酵素であるPRDX4と細胞増殖の指標あるMIB-1、上皮成長因子受容体であるEGFRの発現と予後との関係を解析した。PRDX4の発現低下とMIB-1陽性例で予後が不良(Int J Med Sci. 2018 ;15:1025-1034)で、PRDX4の発現低下はEGFR野生型に多かった(Int. J. Med. Sci 2019 ;16:1199-1206)。また、PRDX4を過剰発現させると、肺腺癌の増殖が抑制された。これらのことから、肺腺癌においてPRDX4が予後に影響を及ぼす因子である事が判明した。さらに、核内蛋白であるTSHZ2の発現と肺腺癌の予後との関係を検討したところ、TSHZ2を過剰発現させることで細胞増殖の抑制、アポトーシスが誘導されること(Int J Med Sci. 2021;18:1980-1989)を確認した。 スフィンゴリン脂質の一種であるSPHK1の肺癌における発現と増殖能の指標であるKi-67との相関、予後との関係と検討したところ、肺腺癌および扁平上皮癌と腫瘍周囲のfibroblastでSPHK1がよく染まる結果であった。しかしながら、扁平上皮癌ではSPHK1の発現とKi-67発現との間に有意な相関は認めなかったが、肺腺癌浸潤部のfibroblastでのSPHK1の染色濃度とKi-67との間に正の相関を認めた。さらに、肺腺癌においてSPHK1高発現群は予後不良である傾向を認めた (Clin Path 2021;14;1-7)。この事から、肺腺癌においてPRDX4、TSHZ2、SPHK1が予後不良因子である可能性があり、今後、これらの因子が癌幹細胞の活性化に寄与するかを検証する必要がある。
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