令和4年度、切除術後の肺瘻の有無を客観的に評価するために胸腔ドレナージシステム回路内より胸腔内ガスを採取し酸素投与時と酸素投与後の胸腔内酸素濃度を測定し、この濃度の差がゼロとなった時点で肺瘻が停止したと判断できることを裏付ける症例を集積した.肺瘻の定量化できる優れた方法であることを確認したが,より簡便に評価できる方法を模索し,胸水内に含まれる酸素ガスおよび二酸化炭素ガス濃度を測定することを検討した.大気中に酸素ガスは多く含まれており,わずかな変化では有意な差として認識されない可能性が十分にある一方,二酸化炭素はわずか0.03%程度しか含まれていないことからわずかであっても変化を感知しやすいと考えられ,肺瘻がある状態では胸腔内の二酸化炭素濃度が大気中より上昇し,肺瘻が減少するとともに二酸化炭素濃度が減少すると仮説を立て,二酸化炭素濃度を測定するために胸水を採取し,ガス分析装置にて解析を行う症例を集積したが,手術翌日から抜去時まで胸水中の二酸化炭素濃度はほぼ変化なく経過することに加え,症例毎の胸水中二酸化炭素濃度にばらつきが大きく標準化することは困難であることが判明した.一方,有意な差の検出が困難と考えた酸素ガス分圧が経過とともにぼぼ同様の低下傾向を示し、ドレーン抜去時には大気圧下の血液ガスの酸素ガス分圧と同程度となることが判明した。令和5年度は術後の血中酸素濃度がこの経過に影響を及ぼす可能性を考慮し,術翌日に前例血液ガスを採取し胸水中酸素濃度にどのように影響するかを検討したが一定の相関を証明できず,また定期的に血液ガス分析を行うことは患者の負担となることから断念した.胸水中酸素濃度に関し解析を行ったところ胸腔ドレーン抜去までの日数に関わらず,最終的に胸水中酸素濃度が94±22Torrとなっていることが判明し,この値が一つの目安となると考えられた.
|