神経ブロックを行う際に、長時間作用型ステロイドであるデキサメタゾンを局所麻酔薬に添加すると局所麻酔薬の作用時間が延長することが知られている。しかし、ステロイドの鎮痛作用と局所麻酔薬の神経遮断効果との関連性は解明されておらず、局所麻酔薬の作用延長効果についてのメカニズムは未だに明らかになっていない。 本研究ではマウス術後痛モデルを用いて、坐骨神経ブロックに対する長時間作用型ステロイド添加による局所麻酔薬作用延長効果を、炎症痛のメカニズムの一つであるNGF-TrkAシグナリング抑制の観点と、中枢神経系の急性および慢性痛に関わる一酸化窒素(NO)への影響についても着目し、後根神経節におけるp-p38 MAPKとNO合成酵素(NOS)の発現の差異について行動学的および組織学的、生化学的に検討することを目的とした。 行動実験においては坐骨神経ブロック後に足底切開を行い、熱刺激による疼痛閾値評価を行った。結果は、神経ブロックから6時間に渡り、デキサメタゾンを添加して坐骨神経ブロックを行った群は非添加群と比較して疼痛閾値の上昇を認めた。また、デキサメタゾンは全身投与するよりも神経周囲に投与した方がよりブロック効果が延長することがわかった。 神経ブロックから30分後と240分後の組織学的な検討では、後根神経節におけるp-p38、NOSに対する免疫染色を行った。p-p38の発現に関しては、どちらの時間帯においてもデキサメタゾン添加群と非添加群の差は認めなかった。一方eNOSとnNOSの発現は、ブロックから30分後の時間帯においてデキサメタゾン添加群と非添加群での差異を認めた。今回の結果からデキサメタゾンを局所麻酔薬に添加して神経ブロックを行うと、後根神経節でのeNOS及びnNOSの発現を抑制し神経ブロックの効果延長に関与していることが示唆された。
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