化学療法誘発性末梢神経障害は有効な予防および治療法は現在まで確立しておらず、動物を用いた実験においては、病態形成の機序に係わるいくつかの分子生物学的機序が指摘されているが、明らかにされてはいない。その機序を解明するため、化学療法誘発性末梢神経障害モデルマウスと、人において化学療法誘発性末梢神経障害を増悪する事を報告した薬剤であるクロピドグレルとパクリタキセルを同時に投与したマウスを作成し、神経症状の悪化について評価した。また、脊髄後根神経節および脊髄を採取し、炎症性のサイトカインやケモカインなどの炎症マーカーをReal-time PCR法を用いて評価・比較検討を行った。さらに、下肢から表皮サンプルを採取し、表皮内神経繊維密度の変化と炎症の関連を免疫染色法を用いて定量的に評価した。 結果として、パクリタキセル投与群で神経症状の悪化が見られた。また、クロピドグレルを併用した群でも神経症状の悪化が見られたが、その悪化の程度に有意差は認められなかった。また、PCR法で評価した炎症マーカーでも有意な差は認められなかった。一方、表皮内神経線維密度は複数の評価者で定量したが、評価者ごとのばらつきがあり、実験データとしては採用できなかった。現在、統一した評価方法を作成している。また、神経系のグリア細胞(脊髄後角および後根神経節のサテライト細胞やアストロサイト、末梢神経のシュワン細胞)の活性化と形態変化が生じ、それが化学療法誘発性末梢神経障害の症状と関連したという報告があり、その影響を評価するための細胞実験については、新型コロナウィルス感染症と異動のため実験を行う施設の準備が予定より遅延したため開始すること ができず、現在培養環境を整えている最中である。パクリタキセル誘発性末梢神経障害と睡眠障害に関して検討を行った。睡眠傷害モデルは末梢神経障害が遷延する期間が長い傾向を認めた。
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