研究課題/領域番号 |
19K18241
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
加納 史也 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(歯学域), 助教 (40801626)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 神経障害性疼痛 / 歯髄幹細胞 / マクロファージ / 培養上清 / ミクログリア / エクソソーム |
研究実績の概要 |
神経障害性疼痛は、体性感覚器系の損傷や疾患により、難治性の慢性疼痛を引き起こすことが多い。現在、神経障害性疼痛の根本的な治療薬はなく、新たな治療薬の開発が求められている。本研究では、マウス坐骨神経部分結紮(PSL)モデルを用いて、ヒト脱落乳歯歯髄幹細胞由来のエクソソームを含む培養上清(SHED-CM)の神経障害性疼痛に対する治療の可能性を検討した。 PSLにより、アロディニアや痛覚過敏などの異常感覚が引き起こされる。行動試験において、SHED-CMの静脈内投与はPSLによる痛覚過敏を大きく改善した。SHED-CMを投与すると、損傷した坐骨神経と同側のL4/L5後根神経節にM2マクロファージが集積し、脊髄のミクログリア活性が抑制されたことを見出した。mannosylated-ClodrosomeによるM2マクロファージの特異的な枯渇は、SHED-CMの抗侵害受容効果を著しく低下させた。SHED-CMで誘導したM2マクロファージのエクソソームを含むパラクライン因子をCMとして回収した(M2-CM)。M2-CMを静脈内に投与すると、PSLによる痛覚過敏が改善された。M2-CMはシュワン細胞における侵害受容体および炎症性メディエーターの発現を直接的に抑制することを見出した。 以上のことから、SHED-CMは鎮痛作用のある抗炎症性M2マクロファージを誘導することによって、神経障害性疼痛を改善することが示唆された。SHED-CMは、神経障害性疼痛の新たな治療候補になる可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
PSLマウスの初期、中期、後期にSHED-CMを静脈内投与すると侵害反応が抑制され、SHED-CMは神経障害性疼痛の発生と維持を抑制する可能性が示された。さらにSHED-CMは、PSLによる運動機能障害も抑制した。SHED-CMは脊髄の後根および前根の両方でIba1陽性の活性化ミクログリアの数を減少させた。これは行動解析の結果と一致している。また神経障害性疼痛と運動機能障害に対するSHED-CMの治療効果は、投与後それぞれ7日目と2日目に消失した。qPCRおよび免疫染色の解析から、SHED-CM投与は損傷した坐骨神経および脊髄後根神経節において抗炎症性のM2マクロファージを誘導し、坐骨神経におけるPSL誘導性の炎症状態およびシュワン細胞のグリア活性化を抑制することが明らかになった。SHED-CMが坐骨神経と脊髄後根神経節でM2マクロファージを誘導する詳細なメカニズムはまだ解明されていない。非手術マウスにSHEDを投与しても坐骨神経と脊髄後根神経節でM2マクロファージがほとんど誘導されなかった。これらのデータは、炎症性M1マクロファージが障害組織に誘導されることが、SHED-CMによるM2マクロファージ誘導の条件であることを示唆している。SHED-CMは、in vitroで骨髄マクロファージのM2極性を誘導することができた。SHED-CMのM2誘導の主なメカニズムは坐骨神経と脊髄後根神経節でにおけるマクロファージのM2分化促進であることが推測された。 これらの結果は、国際的な薬学関連の学術誌に投稿し、現在追加実験中である。
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今後の研究の推進方策 |
坐骨神経結紮時の運動障害に対するSHED-CMの治療効果を検討する。トレッドミルを用いた運動機能評価と脊髄組織の前根の運動神経野を免疫組織学染色を行い、ミクログリアや他のグリア細胞の活性状態をSHED-CMとDMEM群とで比較する。末梢神経組織でのTNFa陽性細胞の正体を明らかにするために共焦点レーザー顕微鏡を用いて詳細な組織解析を行う。SHED-CMの抗炎症効果のターゲット細胞をin vitroで培養し、詳細な抗炎症メカニズムについて解析を行う。 SHED-CM内には様々な神経栄養因子、成長因子、免疫制御因子などが含まれている。神経障害性モデルの鎮痛効果を持つ因子も含まれていることが考えられる。ラベルフリーのLC-MS/MSによりプロテインプロファイルを行い、SHED-CM内の鎮痛効果のあるタンパク質を同定する。さらにミクログリアやアストロサイトなどのグリア細胞の活性化鎮静効果のある因子の同定を行う。既知のタンパク質の場合は複数のタンパク質の組み合わせによって鎮痛効果が相乗的に増加するのかを確認する。新たに鎮痛効果が明らかになったタンパク質が同定された場合、関連遺伝子のノックアウトマウスを作成し、その鎮痛メカニズムを明らかにしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究成果を国際誌へ投稿し、指摘を受けた内容について追加実験を行うこととなったため次年度に実施することになり、次年度使用額が生じた。追加実験に要する動物実験とプロテオソーム解析、英文投稿で使用する予定である。
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