研究課題
術後認知機能障害(POCD)は麻酔・手術後に発生する認知機能低下で、特に高齢者に多く発生し長期的な生活の質の低下、就労困難、死亡率増加につながるため重要視されている。POCDの病態機序として脳内炎症が注目されているが、酸化ストレスは脳内炎症を増悪させる。本研究では、酸化ストレスの程度を簡単な血液検査で評価しPOCD発症を予見できないか、また酸化ストレスを軽減する薬剤を投与することで発症を予防できないかを調査しようとした。60歳以上で全身麻酔下に手術を受ける患者を対象とし、d-ROMsテストで酸化ストレスを、BAPテストで抗酸化力をそれぞれ定量評価し、POCD発症の独立危険因子もしくは早期診断のためのバイオマーカーになりうるかを調査した。POCD発症危険因子として過去に報告されているのは高齢、低学歴、認知機能低下、アルコール摂取、脳血管疾患の既往などであり、質的評価が主であった。本研究では酸化ストレスという視点から定量評価を行ったが、COVID-19対応による手術症例数減少や病棟移動制限などのためサンプル数確保に難渋した。結果として、d-ROMsテストおよびBAPテストの測定値とPOCD発症との関連を確認することはできなかった。また、抗酸化物質の発症予防効果についての調査には至らなかった。しかしPOCD発症の独立危険因子として酸化ストレスという新しいアプローチを開拓できたことは今後の発症予測・予防研究に一つの可能性を残すことができたと考えている。
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Clinical Pediatric Anesthesia
巻: 27 ページ: 3~8