研究実績の概要 |
G蛋白質共役受容体(GPCR)キナーゼ2(GRK2) の発現調節は、GPCRおよび非GPCRシグナリングを介した過剰刺激からの保護により細胞機能を回復する。一次求心性ニューロンにおいて、GRK2は侵害受容性疼痛を負に調節する。本研究では、一次求心性ニューロンにおけるGRK2発現が組織損傷後の急性痛消退に寄与するという仮説を検証した。 後根神経節 (DRG) におけるGRK2発現を切開1,7日後に解析した。GRK2阻害剤の疼痛効果を評価するため、足底切開を受けたラットにおいて、切開後7日目にGRK2阻害剤の腹腔内投与を行った。また、ラット後肢にインスリン様成長因子1(IGF1)を注射後、GRK2発現を分析した。加えて、IGF1受容体(IGF1R)阻害剤を足底切開ラットに投与し、切開による痛覚過敏およびGRK2発現に与える影響を検討した。 足底切開7日後ではDRGにおけるGRK2は増加したが、切開1日後では増加しなかった。足底切開後の急性痛覚過敏は切開後7日までに消失した。この時点でのGRK2阻害剤の腹腔内注射は機械的痛覚過敏を発生させたが、未処置ラットではGRK2阻害剤投与による痛覚過敏を生じなかった。足底切開後のIGF1発現は足底で増加したが、DRGでは増加しなかった。IGF1の足底内注射は同側のDRGにおけるGRK2発現を増加させた。IGF1R阻害剤投与は足底切開後の痛覚過敏消退とGRK2発現の両方を予防した。これらの知見はIGF1によって駆動されるGRK2発現の誘導が強力な鎮痛効果を有し、組織損傷後の痛覚過敏の消退をもたらすことを実証する。IGF1‐GRK2シグナル伝達の調節不全は、急性痛消退不全、即ち手術後の慢性痛発生に潜在的につながる可能性がある。
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