重要臓器の組織低酸素では、プロリン水酸化酵素(PHD:prolyl hydroxylase domain)を介した低酸素応答が備わっている。術後痛動物モデルでも、創部の組織低酸素が実証されているが、低酸素応答の関与およびその術後痛、創部微小環境への影響は不明である。本研究ではマウス術後痛モデルにて、創部でのPHDの発現および阻害効果を調べた。 創部における拘束ストレス負荷発汗試験にて発汗は有意な低下を認めた。一方で、PHD阻害により、発汗は有意な増加を認めた。 PC12細胞を用いたin vitro実験では、PHD阻害で、HIF-1aの核内への移行、及び、濃度依存性な神経突起の伸長を認めた。そこで、汗腺を取り巻く交感神経に注目し、ScaleS法で足底組織を透明化し、TH(tyrosine hydroxylase)で3次元蛍光免疫染色を施行したところ、創部における交感神経線維の有意な低下を認めた。さらに、PHD阻害により、交感神経線維は、有意な増加を認めた。 PHD阻害による低酸素応答活性化は交感神経機能を温存させる結果となった。術後に慢性疼痛及び自律神経障害を呈する術後CRPS(complex regional pain syndrome)における低酸素応答機活性化の関与はさらなる検討が必要であるが、予防的なPHD阻害が自律神経障害に対し保護的に働く可能性が示唆された。
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