研究課題/領域番号 |
19K18266
|
研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
本田 康子 富山大学, 学術研究部医学系, 助教 (50724572)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 海馬 / エストラジオール / 全身麻酔薬 / 静脈麻酔薬 / GABA |
研究実績の概要 |
《目的》海馬にはシトクロムP450系が発現していて,独自に女性ホルモン作用のあるエストラジオールを合成している.海馬内でのエストラジオールの濃度は血中濃度より高く,海馬のシナプス伝達は,このエストラジオールの神経モジュレーション作用により修飾を受けると考えられている.今回我々は,ラット海馬スライス標本を用い、エストラジオールによる全身麻酔作用修飾機序を検討した. 《方法》4週齢のラットを麻酔した後、脳を摘出し海馬スライスを作製した。シャーファー側枝を電気刺激することにより,海馬CA1錐体細胞の集合電位(PS)を誘発した.また刺激電極を海馬白板(AH)に置き,抑制性介在ニューロンを活性化した.統計学的検定は,2-way ANOVAを用いた. 《結果》海馬CA1を高濃度のチオペンタール(0.1 mM)で前処置し,PSをほぼ完全に抑制した.AHにトレイン刺(200Hz, 5s)を与えると,Train-Induced Disinhibition(TID)によりPSはチオペンタール投与前値に回復する.TID後に再びPSが抑制されるまでの時間経過を解析した結果,エストラジオール投与群ではコントロール群に比較してTIDが有意(P=0.0001, n=3)に短縮していた. 《考察》TIDはシナプス前の抑制性伝達物質(GABA)の一時的な枯渇により生じるが,GABAの再取り込みにより再びPS抑制が認められるようになる.エストラジオール群ではGABA recruitmentの促進によりシナプス前からのGABA放出が増加し,TIDが短縮したと推察された. 《結語》TIDの短縮は、海馬シナプス伝達の過剰抑制をきたす。エストラジオールによるTIDの短縮は,静脈麻酔による予期せぬ深麻酔や覚醒遅延に関与する可能性が示唆された.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナ禍により,実験および情報収集に遅延が生じたため.
|
今後の研究の推進方策 |
エストラジオールを用いた海馬スライスの実験系が確立できたので,今後は様々な全身麻酔薬作用におよぼすエストラジオールの修飾を検討する.
|
次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により研究および情報収集に遅延が生じたため.
|
備考 |
1846年ボストンのマサチューセッツ総合病院において,Mortonにより世界で初めてエーテルによる全身麻酔が施行されてから160年以上が経過したが,全身麻酔のメカニズムには依然不明な点が多い.しかしながら,近年ではパッチクランプ法や遺伝子工学などの分子生物学的手法を駆使した解析も進み,麻酔の迷宮の一端が解き明かされようとしている.麻酔薬の作用機序仮説について,我々の研究成果を中心に概説したい.
|