女性ホルモンと全身麻酔薬の相互作用を検討する目的で,今年度はラット嗅内皮質スライスのカルバコール誘発シータ波モデルの作製を試みた.嗅内皮質は,大脳に対する入出力ゲートとしての役割を担うことから全身麻酔薬の作用部位の1つと考えられる. 方法:麻酔した雄性ウィスターラットから脳を摘出し,嗅内皮質スライスを作製した.嗅内野外側および内背側に2本の細胞外電極をそれぞれ刺入し,シータ波を記録した.シータ波は空間認知に関連する脳波であり,アセチルコリン作動薬であるカルバコール前処置により誘発できる.2つの神経ネットワークのシータ波を相互相関解析したヒストグラムを検討に用いた.シータ波はPowerlab(AD Instruments)を用いてA/D変換し,Labchartソフトウェア(AD Instruments)で解析した. 結果:カルバコール処置により安定したシータ波が誘発された.相互相関解析では0 msをピークとしたヒストグラムが認められたことから2つのネットワークに時間的なずれは少ないことが示された.全身麻酔薬デスフルランを適用するとヒストグラムのピークは抑制されて平坦化したことから2つのネットワークが完全に断片化したと考えられた.一方,エストロゲンを前処置してから同様の実験を行うと,ヒストグラムのピークは完全には抑制されず,エストロゲンがデスフルランの作用を減弱した可能性が示唆された. 結論:女性ホルモンは神経ネットワークにおよぼす全身麻酔薬の作用を減弱させる可能性がある.
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