本研究「乳房再建術の術後痛と生活の質に関する内因性鎮痛と脳機能相関/前向き観察研究」においては、乳房再建術は乳癌患者数の増加とともに、その半数以上に術後痛が発生し、患者の生活の質を落とし、社会復帰への支障になっている事を背景として、乳房再建の社会的意義を再評価するとして、患者の主観的評価をより重要視した。その観点から生活の質(QOL: quality of life)の指標としてthe short form-36 health survey (SF-36)取得によって、精神面(Mental Component Score: MCS)と身体面(PCS: Physical Component Score)に分けて(Ogino et al. Frontiers in Human Neuroscience. 2019)の線条体を中心としたROI [Region of interest](関心領域解析)による二次解析(閾値uncorrected p < 0.001)を行った。その結果、線条体全体(淡蒼球+被殻+尾部)をROIとすると有意な結果は得られなかったが、淡蒼球(線条体の一部)がMCS(p = 0.04)とPCS(p = 0.009)に相関があることが分かった。その事から線条体、特に淡蒼球が生活の質が精神面と身体面の両面から関係があることが示唆された。コロナ禍と研究期間が重なることにより限定的なデータ取得となってしまったことは残念であったが、本研究の意義と実績として脳神経適応性(可塑性[plasticity]:学習や環境にあわせて形態と機能を柔軟に変化する性質)と、社会生活に影響があると生活の質(QOL)との相関部位として、脳の線条体を挙げたことにある。結果は、われわれ人間の持つ社会性と環境が脳神経適応性に与える影響という次の研究テーマへと繋がっていく。
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