研究課題/領域番号 |
19K18293
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
川本 修司 京都大学, 医学研究科, 助教 (80766668)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 希釈式自己血輸血 / 血小板 / 心臓血管外科手術 / ポリオレフィン / 振盪 / P-セレクチン |
研究実績の概要 |
①2019年10月欧州集中治療医学会(ベルリン);一般演題「希釈式自己血輸血法における振盪下ポリオレフィンバッグ保存の血小板機能維持に対する有効性」を発表。健常ボランティアから採取された静脈血をポリ塩化ビニル(V)製バッグ、またはポリオレフィン(PO)製バッグに分けて保存し、V群は静置、PO群は50/分にセットされた水平振盪機におき、22℃で8時間保存した。血算、血液ガス測定、光透過法を用いたADPに対する血小板凝集反応測定、FACSによるP-selectin発現測定を開始時、8時間後に行い比較した。2群間に有意な差は認められなかったが、V群とPO群で8時間後にそれぞれ凝集能が61.0%、25.3%低下、非ADP刺激下P-selectin expression が193.7%、104.5%上昇した。MPVとADP刺激下p-selectin発現はほぼ同等であった。また、ポリオレフィン群ではO2が高く、CO2は低く、pHは高い傾向を認めた。
②2019年10月日本心臓血管麻酔学会(京都);シンポジウム招請講演にて「心臓血管外科周術期関連因子と血小板機能」を発表。心臓血管外科周術期における血小板機能管理について概説し、希釈式自己血輸血を実施している胸腹大動脈瘤切除術における新たな希釈式自己血輸血の開発について当研究室の最新のデータを示した。
③2020年6月:日本麻酔科学会、一般演題「心臓手術における血小板機能温存を目的とした新しい希釈式自己血輸血法の開発」を発表予定(採択済み)。振盪数を上げることでPO群はV群よりpH、凝集能が有意に高く保たれ、PCO2、乳酸、非刺激下P-selectin発現が有意に低下した。PO内振盪保存はV内静置保存より血小板機能を維持できる可能性があることを発表。(新型コロナウイルス感染拡大によりweb開催となった)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
心臓手術では人工心肺使用などにより血小板機能が低下するため、希釈式自己血輸血法による「新鮮な」血小板輸血による止血能増加が期待される。しかし従来の希釈式自己血輸血法ではポリ塩化ビニル製バッグによる静置保存が推奨されており、血小板の機能低下が危惧される。今回我々は従来の塩化ビニル製バッグ静置保存による血小板機能の経時的変化および、酸素透過性の高いポリオレフィン製バッグによる振盪保存が血小板機能をより温存するかどうか検討するべく今年度は実験を行った。 結果、従来法は8時間保存前後でpH、凝集能は有意に低下し、二酸化炭素分圧、乳酸、非刺激下P-selectin発現は有意に上昇した。また従来法と比較して新法はpH、酸素分圧、凝集能が有意に高く二酸化炭素分圧が有意に低かった。これらの結果から、ポリオレフィン製バッグを用いた振盪保存は適切なガス交換により好気性代謝を維持し、また乳酸の局所集積を妨げ、適切なpHを維持できることが示唆された。 以上のとおり、新たな希釈式自己血輸血の方法として、ポリオレフィンバッグを用いた振盪保存が、ポリ塩化ビニルを用いた静置保存よりも血小板機能を維持できる可能性があることを示し、学会で報告することができたため、おおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
ポリオレフィンバッグを用いた振盪保存が、既存の塩化ビニルバッグによる静置保存に比してより血小板機能を維持できると証明することができた。今後はさらに保存温度、保存液組成などを改変することでさらに血小板機能を維持できる方法を探っていく。低温保存された冷蔵血小板は、寿命は短くなるものの止血機能(血小板凝集能、粘着能)は上昇することが昨今注目されており、止血を目的とした心臓血管外科手術における希釈式自己血輸血の保存法にも応用できるのではないかと考えている。さらに現在用いているCPDA保存液には多量のグルコースが含まれ血小板機能抑制をきたしている可能性があり、低グルコースの保存液の開発も行いたいと考えている。また、in vitroにおける人工心肺モデルを構築し、人工心肺血と希釈式自己血を実際に混和することで、どの程度血小板機能が改善するか評価することを考えている。 また、実臨床でも倫理委員会に申請の上、患者検体を用いて大量出血を招く可能性のある心臓血管外科患者において、新たに開発した方法が実際に止血機能上昇、さらには出血量軽減、輸血量減少に貢献しているのか検討していきたいと考えている。今後血小板機能評価としては、凝集検査、P-セレクチン発現測定以外に、放出能(β-トロンボグロブリン、血小板第4因子)、低浸透圧ショック回復率、血小板活性化因子、細胞内Ca濃度、cAMP産生、cGMP産生、血餅の動態(血液粘弾性検査)、血小板形態の経時的変化を検討している。特に全血を用いた検査である血液粘弾性検査装置「TEG6s」が当院でも使用できるようになり、血小板機能評価と凝固因子も含めた止血能評価ツールとして使用予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
血小板機能評価方法として、血小板凝集検査、血小板P-セレクチン発現測定、放出能(β-トロンボグロブリン、血小板第4因子)、低浸透圧ショック回復率、血小板活性化因子、細胞内Ca濃度、cAMP産生、cGMP産生、血餅の動態(血液粘弾性検査)、血小板形態の経時的変化を検討していた。しかしながら、比較的安価で簡便な凝集検査、P-セレクチン発現測定のみで、新たな希釈式自己血輸血法として、ポリオレフィンバッグを用いた振盪保存がポリ塩化ビニルを用いた静置保存よりも血小板機能を維持できる可能性があることを示すことができたため、物品費が比較的少額で済んだ。 旅費に関しては、新型コロナウイルス感染拡大により2020年3月に予定していた日本集中治療医学会が延期されるなどしたため出張が中止となったことが原因である。 次年度は、さらに保存温度、保存液組成などを改変することでさらに血小板機能を維持できる方法を探っていくため、今年度測定しなかった血小板機能評価を行う予定である。実臨床でも倫理委員会に申請の上、新たに開発した方法が実際に止血機能上昇、さらには出血量軽減、輸血量減少に貢献しているのか検討していきたいと考えている。また、これらを国際学会、国内学会で広く発表し、論文化する予定である。
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