研究課題
post intensive care syndrome(PICS)とは,重症患者において集中治療室在室中あるいは退院後に生じる精神機能障害,認知機能障害,身体障害の総称であり,長期予後に影響を与える病態である。敗血症による呼吸不全や腎不全といった諸臓器の障害には,過剰な酸化ストレス応答が関与しており,PICSの発症についても同様の機序が関与している可能性が考えられるが,その成因や進展機構の解明は未だ不十分である。また,うつ病や統合失調症など多くの精神疾患の発症に脳内でのグルタミン酸の制御異常が関連している可能性が指摘されているものの,PICSの病態における脳内グルタミン酸の挙動については知見が乏しい。本研究では,グルタミン酸の細胞外輸送に関与する多選択性アミノ酸トランスポーターの一つであるxc-系(System xc-)と,その特異的な構成分子であり酸化ストレスによって誘導されるCystine/Glutamate transporter(xCT)に注目する。また,本研究の目的は,lipopolysaccharide(LPS)の腹腔内投与によるマウス敗血症モデルを作成し,酸化ストレス応答とグルタミン酸制御の両方の観点からPICSの病態を明らかにすることである。研究初年度である令和元年度は,マウス敗血症モデルを用いた検討を実施した。マウスの行動学実験として,ロータロッド試験(運動機能,運動記憶),自発運動試験用回転ケージを用いた自発運動試験(wheel running activity:WRA),Y字迷路試験(短期記憶),体重変化の経時変化を追跡し,敗血症後の精神症状・運動症状の評価を行った。その結果,LPSの投与を行った群では,Y字迷路試験,WRAおよびロータロッド試験のスコアが有意に悪化した。また,脳内のグルタミン酸の濃度は,LPS群で有意に上昇していた。また,これらの現象は,xCTのノックアウトマウスおよびLPSとともにxCT阻害薬を投与した群では抑制された。
2: おおむね順調に進展している
マウス敗血症モデルを用いた検討を行い,集中治療後の認知機能および精神障害に関する検討は当初の計画通りに実施できた。その中で,敗血症後の認知機能障害および精神症状にグルタミン酸およびxc-系が関連していることを明らかにすることができた。
令和2年度は,培養細胞レベルでのLPS,活性化酸素種(Reactive Oxygen Species:ROS)によるミクログリアの活性化,xCTの発現,およびグルタミン酸放出の評価を行う。ミクログリアの活性化の指標としては炎症性サイトカインの産生,ROSや一酸化窒素(nitric oxide :NO)の産生を評価する。また,xCT,Nrf2など酸化応答分子とグルタミン酸調節機構の関連性の評価についても進める。
費用がかかる計画が次年度に持ち越す形になっており,研究初年度は残高が生じている。令和2年度の研究計画に沿って,抗体やELISAキットなどを購入予定である。
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Cancer Letters
巻: 470 ページ: 149~160
10.1016/j.canlet.2019.11.028
Scientific Reports
巻: 9 ページ: -
10.1038/s41598-019-44006-8