全身麻酔下での視覚伝導路近傍の脳腫瘍摘出術や、眼動脈血流を障害するリスクのある動脈瘤手術は、術後に視野障害や失明などの術後視機能障害が発生する可能性があり、術中視機能評価が非常に重要である。視覚誘発電位(visual evoked potential:VEP)モニタリングは、全身麻酔下でも視機能を評価でき、網膜から大脳皮質視覚野までの視覚路のどこかで発生した視機能障害を検出可能である。そこで、VEPモニタリングで視機能を術中にリアルタイムに評価し、振幅低下時に警告することで、術後の視機能障害を未然に回避できる。しかし、術前・侵襲的操作前(ベースライン)と比較して術中VEP振幅が何%低下した場合に術後視機能障害が発生するのかについて調査した報告はなく、各施設独自の警告基準が用いられているのが現状である。 本研究では、術後視機能障害を予防するためのVEP振幅低下の最適な警告基準を設定するために、当施設でVEPモニタリングを併用した脳腫瘍摘出術や脳動脈瘤クリッピング術の患者におけるVEP振幅低下の程度と術後視機能障害発生について検討している。 昨年度までには、警告基準をVEP振幅50%低下に設定して行った当院の過去のデータを整理し、その結果、VEPモニタリングは感度60.0%、特異度100%、正確度94.4%であった。そのこで、より感度を上げるような警告基準を設定することの必要性を再確認した。現在は術後視機能障害を予防するためのVEP振幅低下のカットオフ値を検討しており、今後それについて発表予定である。 また、症例の中には術前からの重度視機能障害のためにベースライン波形の測定不可能なものがあった。そこでそれに関しても検討を加え、VEPベースライン波形測定不可能因子について学会発表を行い、現在はその論文を作成中である。
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