本研究の目的は、出血性ショックに続発する肺傷害が水素吸入により酸化ストレスを軽減させることで予防できるのか、また臓器保護効果があるのかを追求することである。SDラットに気管挿管、人工呼吸管理を開始し、右内頸動脈にカテーテルを挿入し観血的動脈圧測定と脱血を行った。平均動脈圧を30±2 mmHgで厳密に1時間維持し、その後蘇生。平均動脈圧65mmHg以上を3時間維持したのち検体採取し解析した。本年度は条件を加え、吸入酸素濃度に勾配をつけ(21%、50%、75%、100%)、それぞれ1.3%水素含有の有無で肺を評価した。水素の詳細な作用機序を解明すべく、採取した血漿、肺組織を用い酸化ストレス(dROMs test)と抗酸化力(BAP test)測定、分子生物学的検討、形態学的評価を試みた。水素が有する抗炎症作用や抗酸化作用などの炎症制御に携わる転写因子であるNrf2経路に関してもタンパク発現を試み検討したが酸素濃度による勾配で明らかな有意差は同定できていない。これまでの検討から、出血性ショックの早期に100%酸素吸入が酸化ストレスを惹起し生体肺には明らかに有害であることが示唆され、水素吸入がそれを減弱する可能性が示された。蘇生後3時間という超急性期のみの検討であるため、今後水素の至適吸入濃度や評価時間を延長し検討していくことが課題となる。また当初3年目に施行予定であった敗血症性ショックモデルにおける検討は、COVID-19下の影響で施行できなかった。 また臨床研究を設定し、救命救急センターに搬送された出血性ショック、敗血症性ショック患者で計17症例の臨床検体を用い、搬送時、24時間後、48時間後のdROMs test、BAP testを測定した。臨床病態と治療効果判定の客観的指標になりうるか検討したが、明らかに有意な傾向は特定できなかった。
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