研究課題/領域番号 |
19K18336
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
関 玲子 帝京大学, 医療技術学部, 講師 (30527495)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | Toll like receptor / D-ガラクトサミン / マウス病態モデル / 肝障害 / 敗血症 |
研究実績の概要 |
D-ガラクトサミン(D-gal)はウリジン枯渇による細胞ストレスを生じることが知られており、D-galとToll like receptor(TLR)4リガンドであるリポ多糖(LPS)の同時投与(D-gal/LPS投与)を用いた肝障害モデルはこれまでもよく研究されている。 今回、LPS以外の他のTLRリガンド(TLRL)であるCpG DNA(TLR9L)またR848(TLR7/8L)とD-galの組み合わせによる組織障害について新たに解析を行った。CpG DNAは比較的肝障害に特化した臓器障害を惹起したのに対し、R848は広範な全身性組織障害、敗血症性ショックとみられる病態を引き起こした。さらに、好中球や血小板の役割を抗体による細胞除去またはブロッキング法を用いて解析したところ、これらのモデルでは好中球の急性炎症抑制作用が示された。こうした抗体の腹腔内投与をTLRリガンド投与に先立って行った場合に、抗体による非特異的な炎症抑制効果がみられ、その効果はとくにD-gal/CpG DNA刺激において著しいことが示された。 これらの結果は、異なるTLRリガンドを用いたD-gal/TLRLモデルが多様な疾患群(とくに多様なバランスで肝障害と全身性組織傷害がおこる疾患群)の病態解析に有用であること、またTLRによる全身性組織障害の程度の違いから、それぞれのTLRが引き起こす炎症の違いを解析するのに有用であることを示す。さらに、TLR9は、他のTLRに比べてトレランス誘導・免疫抑制作用の影響を受けやすい可能性を示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今回、異なるTLRLとD-galを用いたマウス炎症モデルにおいて、全身性組織障害の程度が用いるTLRLにより異なるのかについて評価を行い、その結果として、TLRLにより違いがあることを明らかにすることができた。これらは、ウィルス性肝障害、敗血症用の全身性障害のモデルとなる可能性を掴むことができた。今後、この相違を評価・解析することで臓器障害発生パターンの解析、ならびに炎症を抑制する薬剤のスクリーニングを行うことができる。 COVID-19による緊急事態宣言を受け大学が閉鎖されたことにより、現在は研究の縮小を強いられている状況である。そのため、実験の遂行の遅れが生じていることが、現在の最も大きな危惧である。
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今後の研究の推進方策 |
今回、D-gal/TLRリガンドによる臓器障害モデルの拡張を試み、この系が、各種TLRリガンドの比較に応用できることを示した。この系は、臨床的なウイルス性肝炎などの肝障害の病像に近いと考えることができる。これらの肝障害では、TLRによる自然免疫系の活性化による炎症を介するため、強い炎症が発生した後におこる免疫抑制状態が予後の大きな問題となりえる。この点では、無菌性臓器障害にともなう易感染状態に近いと思われる。生命の危機からより多くの人を救うには、このようなモデルにおける、炎症、免疫抑制状態を緩和するための手法を実験によって探索することが肝要である。 まず、解糖系活性化が急性炎症反応に必須であるという知見に基づき、2-Deoxy-D-glucose(2-DG)のような解糖系阻害薬を用いることにより、本モデルにおける急性炎症反応抑制効果を調べる。次に、Hypoxia-inducible factor-1α (HIF-1α)阻害薬であるechinomycinの効果も調べる。さらに、SirT1は重要な働きがあると予想されるので、これの発現量測定を行うとともに、Ex527を用いた阻害による効果を調べる。とくに、Ex527は免疫抑制状態からの回復を促進する可能性があるのため、この効果を是非解析したい。エネルギー生成様式が免疫抑制状態において変容することが予想されるが、それには、脂肪酸分解への移行、それを支えるミトコンドリア生成の促進が関与していることが予想される。このため、ミトコンドリア生成を peroxisome proliferator-activated receptor gamma co-activator 1 alpha (PGC-1a) のmRNA測定により解析したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度に購入予定であった機器が、大学予算で購入されたため残金が生じた。しかし、初年度に得られた結果から、サイトカインパターンの測定や、新規化合物を使ったミトコンドリア解析において、新規に実験を行うイムノブロット法を確立させる予定のため、そこで予算を用いる計画である。
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