本研究は、敗血症の転帰予測における命題として、感度、特異度の高さと予測因子数の増加に伴う多数の検査や入力による予測因子収集の煩雑化軽減の両立を指摘し、ビッグデータによる命題解決を提案したものである。この命題解決のため、データ抽出からデータ洗浄までのdata curation(データ精選)から、モデル作成から検証までのdata analytics(データ解析)までのフレームワークを構築するとともに、適切な抽出パラメータ選択や、情報の質に関わるノイズや欠損値への対処を検討している。ここでのフレームワーク構築とは、命題解決に共通して用いることのできる考え方、意思決定、分析、問題解決、戦略立案などの枠組みのことを指すが、提出論文のような試行錯誤による経験の蓄積によって、適用可能なフレームワークの構築ができれば、近年性能が向上しているコンピュータ等の計算能力により命題解決が可能となり、さらに他の大量のデータを扱うべき命題においてもフレームワークを適用することにより命題解決が加速できる可能性があるという点で意義があると考えられる。 本研究では、高頻度の血圧データ、看護記録のテキストデータ、機械学習の3つの方法を検討し、そのうち高頻度の血圧データのみがフレームワークの構築に至り、ノイズの除去や欠損値の補完を行わないデータ精選によって、感度、特異度の高い単一のパラメータによる転帰予測が得られたため、敗血症の転帰予測における命題である、感度、特異度の高さと、予測因子収集の煩雑さの軽減の両立を解決できる可能性を示唆している。ただし、敗血症の転帰予測として実臨床に適用する上での今後の課題として、データ抽出を迅速かつ適切に行うためのインフラ構築、特定の命題に対して適用するフレームワークを選択するための経験の蓄積、入力に際しての属人的要素の排除、および情報処理技術の向上が必要であると考えられる。
|