心不全における血管内皮グリコカリックスの超微形態学的検討

2019 年度 実施状況報告書

• 研究課題/領域番号: 19K18347
• 研究機関: 岐阜大学
• 研究代表者: 福田 哲也 岐阜大学, 医学部附属病院, 助教 (00839201)
• 研究期間 (年度): 2019-04-01 – 2022-03-31
• キーワード: 心不全 / 血管内皮 / グリコカリックス

研究実績の概要

心不全モデルマウスとして10週齢のオスのδサルコグリカンノックアウト（dSGKO）マウスを屠殺し、脳、心臓、肺、肝臓、腎臓の血管内皮グリコカリックスの超微形態を検討した。dSGKOマウスの生存率は30週で25％であり生存率は有意に低下していた。正常マウスの心臓では血管周囲に線維化を軽度に認める程度である一方で、10週齢のdSGKOマウスでは左室自由壁の心筋の大半が脱落し線維化が認められた。石灰化の評価を行うためvon Kossa染色を施行したところdSGKOマウスでは心筋細胞が脱落した部分に大量の石灰化が認められた。透過型電子顕微鏡においてはdSGKOマウスでは核の異形が認められる。また、正常では整然と並んでいるミトコンドリアも、その配列に乱れが生じていた。間質では線維芽細胞からCollagen Fiberが産出や石灰化像が超微形態においても確認できた。次に硝酸ランタンによる電子染色をおこないグリコカリックスの評価を超微形態学的に行ったところ、正常マウスの心臓では毛細血管内皮をグリコカリックスが全周性に均一な厚みを保って覆っているのに対し、dSGKOマウスの心臓ではグリコカリックスの大部分が剥がれ落ち、十分な厚さを維持できていなかった。心臓以外の各臓器の毛細血管内皮でも、正常マウスとdSGKOマウスにおけるグリコカリックス構造の違いが現れている。特に、一般に灌流固定の過程でグリコカリックス構造を残すのが難しいとされている肺において、dSGKOマウスの肺毛細血管内皮グリコカリックスが激しく傷害されていた。肝臓においても、dSGKOマウスではグリコカリックスが剥離し、類洞が血管内腔に露出していた。以上のことからdSGKOマウスによる心不全では血管内皮グリコカリックスの傷害を引き起こしていた。このことが心不全の多彩な臨床症状の要因のひとつになっているのではないかと考えられた。

現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本研究では心不全モデルマウスでの血管内皮グリコカリックスの傷害を超微形態学的にとらえることと、患者血清を用いた心不全と内皮グリコカリックス障害の関連の検討を行うことである。現時点で前者の確認ができており、後者についても血液サンプルの収集を続けているため、おおむね順調に経過していると考えられる。

今後の研究の推進方策

患者血清を用いた心不全と内皮グリコカリックス障害の関連の検討のためのサンプルとデータ収集を続ける。

次年度使用額が生じた理由

当初予算と実使用額に誤差が生じたため。
差額に関しては、研究遂行に必要な物品などに充当する。

研究成果

• [雑誌論文] Neutrophil Elastase Inhibition Ameliorates Endotoxin-Induced Myocardial Injury Accompanying Degradation of Cardiac Capillary Glycocalyx (2019)
  • 著者名/発表者名: Fukuta T, Okada H, Takemura G, Suzuki K, Takada C, Tomita H, Suzuki A, Oda K, Uchida A, Matsuo S, Fukuda H, Yano H, Muraki I, Zaikokuji R, Kuroda A, Nishio A, Sampei S, Miyazaki N, Hotta Y, Yamada N, Watanabe T, Morishita K, Doi T, Yoshida T, Ushikoshi H, Yoshida S, Maekawa Y, Ogura S.
  • 雑誌名: Shock 巻: 2019 Nov 19. ページ: -
  • DOI: 10.1097/SHK.0000000000001482
  • 査読あり / オープンアクセス
• [雑誌論文] Factors Enhancing Serum Syndecan-1 Concentrations: A Large-Scale Comprehensive Medical Examination (2019)
  • 著者名/発表者名: Oda K, Okada H, Suzuki A, Tomita H, Kobayashi R, Sumi K, Suzuki K, Takada C, Ishihara T, Suzuki K, Kano S, Kondo K, Iwashita Y, Yano H, Zaikokuji R, Sampei S, Fukuta T et al.
  • 雑誌名: Journal of Clinical Medicine 巻: 8 ページ: 1320～1320
  • DOI: 10.3390/jcm8091320
  • 査読あり / オープンアクセス
• [雑誌論文] Neutrophil Elastase Damages the Pulmonary Endothelial Glycocalyx in Lipopolysaccharide-Induced Experimental Endotoxemia (2019)
  • 著者名/発表者名: Suzuki K, Okada H, Takemura G, Takada C, Kuroda A, Yano H, Zaikokuji R, Morishita K, Tomita H, Oda K, Matsuo S, Uchida A, Fukuta T, Sampei S, Miyazaki N, Kawaguchi T, Watanabe T, Yoshida T, Ushikoshi H, Yoshida S, Maekawa Y, Ogura S.
  • 雑誌名: The American Journal of Pathology 巻: 189 ページ: 1526～1535
  • DOI: 10.1016/j.ajpath.2019.05.002
  • 査読あり / オープンアクセス
• [学会発表] 岐阜県外傷調査から見えてきたもの～外傷評価で過小評価となりやすい部位や合併損傷となりやすい部位の検討～ (2019)
  • 著者名/発表者名: 吉田隆浩,福田哲也、三宅喬人、鈴木浩大、山田法顕、名知祥、土井智章、小倉真治
  • 学会等名: 第23回日本臨床救急医学会総会・学術集会
• [学会発表] 麻酔科ストレステストで不安性を評価した骨盤輪骨折の治療成績～より低侵襲な内固定方法を目指して～ (2019)
  • 著者名/発表者名: 神田典秀,市橋雅大、福田哲也、三宅喬人、吉田隆浩、小倉真治、山路文範、水野洋佑、豊田泉
  • 学会等名: 第33回日本外傷学会総会・学術集会
• [学会発表] 感染症敗血症1 敗血症心筋傷害に対するリコンビナントトロンボモジュリンの治療効果の検討 (2019)
  • 著者名/発表者名: 福田 哲也,岡田英志、鈴木浩大、高田ちひろ、岡本遥、山田法顕、土井智章、吉田隆浩、牛越博昭、吉田省造、小倉真治
  • 学会等名: 第47回日本救急医学会総会・学術集会
• [学会発表] 壊死性筋膜炎における手術治療の検討 (2019)
  • 著者名/発表者名: 三宅 喬人,土井智章、神田典秀、市橋雅大、岡本遥、福田哲也、中野通代、吉田隆浩、吉田省造、牛越博昭、小倉真治
  • 学会等名: 第47回日本救急医学会総会・学術集会
• [学会発表] 軽微な頸部外傷による咽頭後壁血腫によって気道緊急を来した1例 (2019)
  • 著者名/発表者名: 大岩 秀明,三宅喬人、柿野圭紀、熊田恵介、吉田隆浩、吉山直政、福田哲也、小倉真治
  • 学会等名: 第47回日本救急医学会総会・学術集会
• [学会発表] 糖尿病マウス敗血症性血管炎モデルにおける血管内皮グリコカリックスの障害と炎症への関与 (2019)
  • 著者名/発表者名: 三瓶 想,岡田英志、鈴木浩大、福田哲也、土井智章、熊田恵介、牛越博昭、吉田省造、久志本成樹、小倉真治
  • 学会等名: 第47回日本救急医学会総会・学術集会
• [学会発表] 岐阜県ドクターヘリが対応した熱傷症例からみた熱傷診療の課題 (2019)
  • 著者名/発表者名: 土井 智章,山田法顕、熊田恵介、名知祥、長屋聡一郎、中野通代、三宅喬人、吉田隆浩、安田立、北川雄一郎、福田哲也、館正仁、小倉真治
  • 学会等名: 第26回日本航空医療学会総会