研究実績の概要 |
心不全患者は増加傾向に予後不良の病態であるが, 現在のところバイオマーカーとして推奨されているものがなく, 突然増悪し再入院, 死亡に至ることが多い.その要因として心不全は多彩な臨床症状を示し腎臓や肝臓など多臓器にわたって障害を引き起こすことが知られている. 血管内皮細胞表面に存在するグリコカリックスは血管の恒常性維持に対して重要な役割を果たしているが, 近年, 循環血液量増加によりグリコカリックスが障害され, 水分の血管外漏出が増加し臓器障害が生じると考えられている. 我々は心不全モデルマウスを用いて心臓や肺, 腎臓, 肝臓の血管内皮傷害をきたし, グリコカリックスが脱落することを見出し, このことが心不全の多彩な臨床症状の要因のひとつになっていると推測している. 2017年9月から2018年6月までに入院加療となった心不全の患者に対して主治医が必要と判断した採血を実施し, その残血清でグリコカリックスの障害マーカーと考えられている血清シンデカン-1濃度を測定した. 2019年12月まで再入院または死亡までの期間をPrimary Outcomeとした. ただし急性心筋梗塞・維持透析・悪性腫瘍・肝硬変・膠原病の患者は除外した. 152人(男性58人, 女性94人)がエントリーし784検体が得られた. 患者年齢は中央値76歳(68-85)であった. 再入院・死亡が生じたのは67人で, それまでの期間の中央値は288日であった. 血清シンデカンー1濃度が高ければ高いほど再入院・死亡の発生率が上昇することが確認できた.
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