研究実績の概要 |
血管内皮グリコカリックスは健常な血管内皮表面を被覆する構造物であり,プロテオグリカンや糖タンパクで構成されている。血管内皮グリコカリックスの構成成分の一つであるシンデカン-1は,グリコカリックスが障害されると血液中に遊離してその血中濃度が上昇するため,シンデカン-1の血中濃度の測定により血管内皮グリコカリックスの障害を定量することが可能である。本研究では,入院中の心不全患者を対象に,血清シンデカン-1濃度が再入院または死亡を予測し得ないか検討した。2017年9月から2018年6月までに心不全の悪化で入院した患者を対象に,血清シンデカン-1濃度を分析した。対象期間内に入院し,研究の対象とした患者は152人であり,男性が94人,年齢の中央値は76歳であった。心不全の背景疾患は,虚血性心疾患(40人),高血圧性心疾患(26人),不整脈(21人),拡張型心筋症(17人)などであった。観察期間中に,67回の再入院または死亡のイベントが認められた。血清シンデカン-1濃度の中央値(37.04ng/mL)から300ng/mLまで上昇すると,再入院または死亡のイベントが発生するハザード比が1.687 (95%CI, 1.169-2.974, p=0.016)と有意に関連を認めた。 また、心不全モデルマウスであるδサルコグリカンノックアウトマウスの9-12週齢のオスを用いて検討を行ったところ血清シンデカン-1はdSGKOマウスにおいて有意に上昇しており超微形態学的にもグリコカリックスの障害を確認できた。 以上の結果から血清シンデカン-1濃度は,内皮グリコカリックスの損傷を示す可能性があり,心不全患者の無再入院生存率を予測できる可能性が示唆された。
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