脂肪塞栓症候群(FES)は多臓器に脂肪成分が塞栓症を起こす稀な症候群である。FESあるいは脳脂肪塞栓症(CFE)は多くの場合非特異的な臨床症状により診断されることが多く、本当の発症率がわかっていない可能性がある。本研究の目的はMRI所見を基に長幹骨骨折あるいは骨盤骨折に合併する脳脂肪塞栓症の発症率を明らかにすることである。 2016年4月から2020年3月の間に高エネルギー外傷で骨盤骨折あるいは下肢長幹骨(大腿骨あるいは脛骨)を受傷し岐阜大学医学部附属病院高度救命救急センターに搬送された20歳以上の患者である。MRIは受傷の2-4週後に施行した。全てのMRI画像は2名の神経放射線読影医のうちどちらかの1名により読影が行われた。患者背景、受傷までの経過、injury severity score(ISS)、来院時とMRI施行日時、手術を含む加療内容、予後を調査した。 63例の解析を行った、3例がMRIシークエンスの不足を理由に除外した。60例中45例(75%)は男性であった。全ての患者は鈍的外傷であり、29例が交通外傷、19例が転落、7例がスポーツ外傷、5例がその他の受傷機転であった。骨折型は21例が骨盤輪骨折、14例が寛骨臼骨折、15例が大腿骨骨折、4例が骨盤輪と寛骨臼骨折合併例、5例が骨盤輪と大腿骨骨折合併であった。ISSの中央値は13(4-43)であり死亡例はなかった。60例中54例は長管骨骨折あるいは骨盤骨折に対して手術的治療が施行されており、そのうち21例は来院同日に手術加療が行われていた。23例の長管骨骨折患者がいたが、全ての患者で来院同日に創外固定(9例)あるいは髄内釘固定(14例)を施行されていた。MRIは入院後18日(2-30)で施行されており、2例(3.3%)が典型的なMRIの所見を認めたためCFEと診断され、3例(5%)は「疑い例」という結果であった。
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