敗血症は依然死亡率が高い疾患であるが、その正確な病態や治療法は確立していない。本研究は生体内でおもに組織分化に作用するとされる転写共役因子の解析を通じて、敗血症病態の形成における脂肪組織の意義の解明を目的とする。肥満症は脂肪組織の慢性炎症によるlipotoxicity(脂肪毒性)がその本態とされるなど、慢性期病態における脂肪組織の病態生理学的意義が詳細に検討されているが、急性期病態でのlipotoxicityの実態は殆ど明らかになっていない。肥満患者では敗血症死亡率が高いことや、敗血症の病態と脂肪組織の炎症が誘導する病態が類似することから、lipotoxicityが敗血症でも重要な役割を演じている可能性が高いと考えられるため、本研究では遺伝子改変マウスを用いた敗血症モデルの作成と表現型解析、および脂肪細胞系の検討を通じて、敗血症の脂肪組織の分子学的意義の解明を目指す。さらに、阻害薬を用いて新規治療法の開発を目的とするトランスレーショナルリサーチの側面も持つ。 2019年度は各種モデルマウスの作成および表現型解析を施行し、脂肪組織の炎症を組織学的、生化学的に評価した。さらに敗血症モデルの作成と死亡率や炎症関連遺伝子発現を検討した。その結果、normal chow下の敗血症モデルの解析においてはノックアウト群と対照群において脂肪率や炎症性変化に大きな差が見られなかった。続けて、同様の検討を高脂肪食負荷環境下に行っている。またこれらの知見を国際学会等にて学会発表を行った。
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